「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(案)」は,Huawei対ZTEに関して欧州連合司法裁判所が示した解釈を基礎に論点整理が行われています。
欧州連合司法裁判所は,FRAND宣言を行って標準化機関に標準必須認定された特許の権利者による訴えの提起が市場支配的地位の濫用にあたらず,差止請求を認めるための要件として以下の要件を示しました。
- 特許権者は,訴えの提起前に,被疑侵害者に対して,問題の特許の侵害の恐れ,及び侵害と考える事実を特定して警告する必要がある。
- 被疑侵害者がFRAND条件によるライセンス契約締結の意思を表示した後,標準必須特許権者の方から,書面により,ライセンス条件,特にライセンス料およびその算定根拠を提示しなければならない。
- 被疑侵害者が当該特許の利用を継続し,かつライセンス契約締結の申込みに対し商慣習に照らして誠実な応答がなされない。
- 被疑侵害者は,標準必須特許権者からのライセンス提供を拒絶した場合,直ちに書面により具体的なFRAND条件を含む対案を示さなければならない(被疑侵害者の対案が拒絶された場合には,被疑侵害者は,それまでの標準必須特許の使用回数等に基づいて算定した金額を,銀行保証または担保に供する必要がある。この場合,被疑侵害者は当該特許の利用に関連する売上等の会計記録を開示しなければならない。)
- 被疑侵害者は,ライセンス契約の協議と並行して特許の有効性及び/または必須性(技術的にみて標準規格に必須であるといえるか)について異議を申立てること,または将来の異議申立ての権利を留保することについて,何ら非難されるべきものではない。
「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(案)」は,このような欧州連合司法裁判所が示した解釈を基礎に「ライセンス交渉の各段階」として以下の整理を行い,各国の裁判例を参考に各段階において,各当事者が行うべきことが整理されています。
- 特許権者がライセンス交渉のオファーをする段階
- 実施者がライセンスを受ける意思を表明するまでの段階
- 特許権者がFRAND条件を提示する段階
- 実施者がFRAND条件のカウンターオファーを提示する段階
標準必須特許のライセンス交渉において,特許権者側が不誠実であると評価されると,特許権侵害による差止請求が認められなくなる方向に働き,実施者側が不誠実であると評価されると特許権侵害による差止請求が認められる方向に働くことになります。
このような考え方前提に,「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(案)」で整理されている内容を確認していきましょう。