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富士フイルム 特許権侵害でDHCを訴える

富士フイルムは,ディーエイチシー(DHC)のスキンケア化粧品「アスタキサンチンシリーズ」の一部が,富士フイルムの特許権(特許第5046756号)を侵害しているとして,平成26年9月19日に,同製品の製造,販売などを差止める仮処分命令の申立を行ったと発表しました。

この仮処分命令は,本来の訴訟とは異なり,判決が下されるまでの間,侵害状態を放置できないような場合に,訴訟を行うことを前提として,仮の差止めを求める請求です。

特許侵害訴訟では,侵害論と損害論が別々に議論されます。

具体的には,最初は特許権を侵害するか否か(特許権無効などの抗弁に関する議論も含めて)について議論を行い,裁判所が特許権侵害に該当するとの心証を抱いたのちに損害論について議論を行うというものです。

仮に,特許権侵害に該当しないにもかかわらず,損害論を議論すると後で損害論の議論が無駄であったということを回避するために行われる審理方法です。

裁判所においては,このような方法で審理が進むわけですが,訴訟の提起と同時に仮処分の申立てを行っておくと,双方の審理を同じ裁判官が行ってくれ,特許権侵害の心証が形成された段階で仮処分の決定も下してくれ,損害論を議論している間の侵害状態を解消することができるというメリットがあります。

ところで,特許権が侵害するか否かの判断は,ある製品が,請求項に記載された技術的要素のすべてを満たすか否かによって判断され,請求項に記載された技術的要素が一つでも当てはまらないとなると特許権侵害ではないと判断されるのが原則です。

ですから,訴えられた方は,自社の製品を技術的構成要素ごとに分析し,それらの一つでも特許請求項に含まれないことを主張・立証すればよいわけです。

仮に,自社の製品が請求項の全てを満たす場合であっても,特許権侵害に該当しない抗弁を主張立証することができれば特許権侵害とはなりません。

今回の富士フイルムが侵害されたと主張している特許発明は,分散性の高いエマルジョン組成物として添加されるカロテノイドを含む水分散成物の安定性を維持し,抗酸化成分アスタキサンチンを化粧品への安定配合する技術に関するものです。
特許発明は,以下の6つの化合物と2つの製法に関するものです。
【請求項1】
 (a)アスタキサンチン,ポリグリセリン脂肪酸エステル,及びリン脂質又はその誘導
体を含むエマルジョン粒子;
 (b)リン酸アスコルビルマグネシウム,及びリン酸アスコルビルナトリウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体;並びに
 (c)pH調整剤を含有する,pHが5.0?7.5のスキンケア用化粧料。
【請求項2】
 前記リン脂質又はその誘導体がレシチンである,請求項1に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項3】
 更にトコフェロールを含む,請求項1又は請求項2に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項4】
 更にグリセリンを含む,請求項1?請求項3のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料。
【請求項5】
 前記グリセリンの含有量が,スキンケア用化粧料の全質量に対して10質量%?60質量%である請求項4に記載のスキンケア用化粧料。
【請求項6】
 前記エマルジョン粒子の平均粒子径が200nm以下である請求項1?請求項5のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料。
【請求項7】
 請求項1?請求項6のいずれか1項記載のスキンケア用化粧料の製造方法であって, アスタキサンチンを含有するカロテノイド含有油溶性成分,ポリグリセリン脂肪酸エステル及びリン脂質又はその誘導体と,水相とを混合して,エマルジョン粒子を有する水分散物を得ること,
 前記水分散物と,リン酸アスコルビルナトリウム及びリン酸アスコルビルマグネシウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体を含む水性組成物とを混合して,平均粒子径200nm以下のエマルジョン粒子を有する分散組成物を得ること,
 分散組成物のpHを5?7.5に調整すること,
を含むスキンケア用化粧料の製造方法。
【請求項8】
 前記リン脂質又はその誘導体の含有量が,前記水分散物全体の質量に対して0.001質量%以上20質量%以下である,請求項7記載のスキンケア用化粧料の製造方法。

DHCとしては,自社の製品を分析し,上記した各請求項に記載された技術的要素の一つにでも該当しない部分が存在すると主張すればよいわけです。

あるいは,何らかの抗弁が認められるということを主張・立証すればよいわけです。

今回問題となった特許発明のように化学物質に関する発明は,請求項において化学物質あるいは化学式に基づいて特定されていますが,その特定の方法が包括的にならざるを得ない側面があります。

この結果,請求項に記載されている化学物質あるいは化学式が具体的に何を示しているのか特定できない可能性が存在するため,請求項において特定されている化学物質としてどのようなものが存在するかということを明細書において詳細に記載する傾向にあります。

また,特許権を行使する際に,どのような実施品が請求項に含まれるのかを明らかにする目的で非常に多くの実施例が列挙されている場合もあります。

さらに,請求項の記載だけでは,化学物質が,明細書に記載されている化学的効果を有するのか否かを確認することができないため,検証実験データを多数示すことが行われています。

今回の特許発明は,特定性が比較的高いため多くの実施例を列挙するということは行われていませんが,請求項に挙げられた化学物質が具体的にはどのような物質であるかという点,明細書に記載された化学的効果を示す実験結果が記載されているため,比較的長文の明細書になっています。
化学物質に関する一般的な明細書と比較すると必ずしも長いものとは言えませんが・・・
特許明細書とは,どのようなものであるかを確認する上では今回問題となっている特許権の特許明細書を確認するのも一つではないでしょうか。

今回の特許明細書を確認する方法の一つに
特許電子図書館(IPDL)
に特許番号を入力する方法があります。
簡単に確認することができますので,一度確認してみてください。

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