既に世の中でありそうでなかったものの一つとして,インターネットを利用した個人間の不動産売買仲介があります。
現在では,インターネット上のサイトを利用して,様々なものが個人間で取引されており,何千万円もする自動車ですらその対象となっています。
不動産業者がインターネット上で仲介業を行っていることの広告,不動産業者が所有あるいは売却の依頼を受けている物件を紹介するサイトは多数存在しますが,個人間で土地や建物といった不動産を対象とした売買の支援を行うサイトというものは,今までなかったように認識しています。
この程,ヤフーとソニー不動産は,個人がインターネットのサイトを利用してマンションを売買できるサービスを開始したと発表しました。
このサービスを利用することで,マンションを売りたい方は,自身で買主を探し出すことができ,不動産業者に対してマンション売却を依頼して手数料(最大,売買金額の3%及び消費税)を支払わなくて済むというものです。
また,マンションの購入希望者も,購入希望のマンションに関する条件を登録することで,売却希望の方からの情報を得ることができます。
ソニー不動産が提供する「おうちダイレクト」では,売却希望者がサイトに登録すると,購入希望者に対してネット上で情報の提供を行い,売買の条件について決定していきます。
「おうちダイレクト」の特徴は,ソニーと共同開発した人工知能「不動産価格推定エンジン」にあります。
これは,首都圏5万棟のマンションの取引データに基づき,物件の立地,間取り,専有面積などに基づき推定成約価格をはじき出し,売却希望者と購入希望者は,推定成約価格を基準に売買代金の交渉を行うことができます。
これにより,売主,買主ともに情報の格差により,安売りをする,高買いをするという負公正な取引を排除することができ,安心して取引を行うことができます。
なお,ソニー不動産は,物件の現地見学,決済や物件の引渡しなど素人では単独で行うことが困難なものに対して支援を行うようです。
これにともない,買主の側は,ソニー不動産に対して売買代金の3%+6万円の手数料を支払うことになります。
欧米では居住用の中古物件の流通量が全体の8割から9割を占める一方で,日本では1割あまりしかないと言われています。
他方で,日本では,全国で空き家問題が深刻化しており,民泊を認めるなどにより空き家の積極的活用が模索されています。中古物件市場を拡大することも,空き家対策の有力な解決策として注目されているところです。
「おうちダイレクト」は,日本の中古物件市場を拡大する担い手として非常に注目されているところですが,解決しなければならない問題も多数存在します。
そもそも,不動産の仲介業は,宅地建物取引業の免許を取得しなければ行うことができず,不動産仲介業者は,仲介の依頼者に対して様々な法的責任を負っています。つまり,仲介業者をはさんだ不動産の売買におけるトラブルについては,売買の当事者は,仲介業者に対して責任を追及していくことができるのです。
ところが,サイトを利用して情報交換を行って個人間で売買契約を実行した場合には,売買契約上のトラブルは,売主あるいは買主に対して追及する以外に方法がありません。
なお,「おうちダイレクト」のように買主から手数料を受取る場合には,買主については,サイト運営者に対して責任を追及していくことは可能であると考えますが・・・
売買契約のトラブルを売主あるいは買主に対してダイレクトに追及していく場合の問題として,責任を果たす側に,それに耐えうる経済力があるのかという問題が常に付きまといます。
例えば,住宅ローンを支払うことができなくなってマンションを売却される方(なお,残ローンがマンションの売却価格よりも高額であったとしても,ローン銀行の承諾を得ることができれば売却することは可能です。)は,買主から責任を追及されたとしても,その責任を果たす経済力はないと考えた方がよいでしょう。
そして,買主としても,売主のローンの支払状況や経済状況まで把握することは困難です。
また,売買の売主は,マンションなどの不動産に限らず,売主として1年間の担保責任を負うことになり,売買契約時には認識することができなかった瑕疵について損害賠償義務を負うことになります。
なお,売主の担保責任については,当事者の合意で免責とすることができますが,売主が担保責任を負うことのない物件については,価格が低額化する,買い手が付かないという事態にもなりかねません。
以上で説明した以外にも,個人間の不動産売買では,様々なトラブルが発生する可能性があり,一定のルール作りというものが不可欠であると考えています。
なお,マンションという高額なものを売買するわけですから,売買にあたっては弁護士に相談するのも一つの方法であると思います。