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【年金】【流出】【税金】公務員の個人的責任

6月18日、国会で安倍総理は、大量の個人情報が流出した日本年金機構の問題について、その対応のための費用は国民が納めた保険料か税金でまかなうしかないという考えを示しました。

日本年金機構から125万件の個人情報が流出した問題について、その対応として、差しあたり、おわび状の送付、あるいは相談ダイヤルの設置などがなされています。
このような対応策にかかる費用について、日本年金機構 水島藤一郎理事長は、「現時点でこれらを見積もることは困難だと申し上げざるを得ないと、ご理解いただきたいと思います」と答え、安倍総理は、「皆さまの大切な保険料であります。一方、税金も国民の皆さまからお預かりをしている税金であるということも申し上げておきたいと思います。しかし、このどちらかから出さなければならないのは当然のことで、これしかないわけですから」と答弁し、これらの対応費用を税金から支出する考えを示しました。

そもそも今回の、個人情報流出は、日本年金機構の職員が、メールに添付されていたexeファイルを開いたことでウィルスに感染し、発生したものと見られています。

知らないアドレスから送られてきたメールを不用意に開けることも問題ですが、exeファイルはプログラムの実行ファイルであり、コンピュータを業務に使う人間であれば、絶対に不用意に開いてはいけないファイルの一つになります。
st256.jpgまた仮にウィルスに感染したからといって、年金に関する個人情報といった重大な情報が、一般のネット回線と繋がっているという体制自体にも大いに問題があります。
日本年金機構の組織、職員のセキュリティ意識と言いますか、コンピュータに対するリテラシーの低さにはただただ呆れる一方ですが、他方で政府はマイナンバー法を実施して、国民の側には厳格な情報管理を求めようというのですから、これで怒らなければ日本国民は余程お人好しだということになります。

さてこの日本年金機構、ずさんな年金記録管理と数々の問題から、公的保険制度全般を取り扱っていたあの社会保険庁を廃止し、公的年金制度を取り扱う公務員の在籍しない特殊法人となります。このためその職員は、公務員ではありませんが、みなし公務員としての身分となります。

名前と組織は変わっても、その危機管理の甘さは変わっていなかった日本年金機構の組織的なセキュリティ対策の甘さ、職員の過失が招いた今回の被害。
安部首相は、税金で対応すると述べましたが、その対策や補償に要する費用を、当の問題を起こした職員や組織に対して責任を求めることはできないのでしょうか。
実は、公務員については、職務の遂行中、過失により、第三者に被害を与えたとしても、原則として賠償責任を負わないこととされています(故意・重過失のある場合は、国家賠償法1条2項参照)。

最高裁昭和30年4月19日判決によれば、「公務員の職務行為に基づく損害については、国又は公共団体が賠償の責に任じ、職務の執行に当たった公務員は、行政機関としての地位においても、個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではない。」とされています。
これは国が被害を補償すれば、被害者の損害は回復されるので、公務員個人の責任まで問うのは、ただの復讐心を満足させるものに過ぎないであるとか、公務員の職務執行を萎縮させるということが理由とされています。
しかしながら、そもそも求償の問題は、国と当該公務員の問題ですし、これでは公務員個人は、いかにいい加減な職務を行っても、国が税金から損失補填すれば民事上、お咎め無しとなってしまいます。
当該職員が、故意に情報を流出させたりであるとか、犯罪に該当するような事案であれば、流石に刑事責任は追及され得ることにはなりますが、自分たちで無用なミスをして国民に損害を与えておきながら、そのツケも国民の税金で支払うというのは、何とも収まりの悪い話ですね。

文責 弁護士 久保陽一

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