個人のお客様

医療過誤

手技のミス

  • 近視矯正手術における手技上の過失
  • 大阪地裁平成14年8月28日判決の事例を参考
  • 1.588万円の支払いを命じた事例

ケース

【手術前の視力】

私の遠方視力は、右眼0.07ないし0.08、左眼0.1ないし0.15でしたが、矯正すれば、両眼とも1.0の視力を得ることができており、乱視はありませんでした。

また、近方視力は正常な範囲にあったし、コントラスト感度の低下、グレア等の障害は生じていませんでした。

【手術の内容】

私は、眼科において、近視矯正手術であるRK手術を受けました。

右眼には4本のRK切開が入れられているほか、3本のT切開が入れられました。
左眼には4本のRK切開が入れられました。

そして、このRK切開においては、オプティカルゾーンが右眼1.8ミリメートル、左眼2.0ミリメートルしか確保されていない上に、左眼の切開線の一部は湾曲していました。

【手術後の視力】

手術後において、遠方視力は、右眼の裸眼視力0.7、矯正視力0.8(円柱レンズの度マイナス1.25D、軸の方向45度)、左眼の裸眼視力0.8、矯正視力0.9(円柱レンズの度マイナス0.75、軸の方向130度)、近方視力は、右眼の裸眼視力0.4、矯正視力0.7(円柱レンズの度マイナス1.25D、軸の方向45度)、左眼の裸眼視力0.6、矯正視力0.7(円柱レンズの度マイナス0.75、軸の方向130度)であり、自動他覚屈折・角膜計による屈折値は、右眼が球面レンズの度プラス1.25D、円柱レンズの度マイナス1.25D、軸の方向45度、左眼が球面レンズの度プラス1.75D、円柱レンズの度マイナス0.75D、軸の方向130度でした。

また、自覚症状として、グレア、スターバーストがありました。

そして、昼間コントラスト感度は、右眼が1.5、18で高度低下、3、6、12で軽度低下、左眼が1.5、18で高度低下、3、6で中等度低下、昼間周辺グレアでのコントラスト感度は、右眼が1.5、18で高度低下、3、6、12で軽度低下、左眼が全周波数で軽度低下、夜間中心グレアでのコントラスト感度は、右眼が1.5、18で高度低下、3、6、12で軽度低下、左眼が1.5、12、18で高度低下、3、6で軽度低下でした。

SRIは右眼0.95、左眼0.86、SAIは右眼0.86、左眼0.55でした。

質問

医師の行ったRK切開において、オプティカルゾーンが右眼1.8ミリメートル、左眼2.0ミリメートルしか確保されていない上に、左眼の切開線の一部は湾曲しているために、私の両目に後遺症が残ったのだと思います。

このような手術をした医師に責任はないのですか。

説明

【RK手術】

RK手術とは、角膜に放射状の切開(RK切開)を入れ、角膜の屈折率を緩和させることにより、近視を矯正する手術のことです。

他方、乱視矯正角膜切開(T切開)とは、乱視の強い軸に対して、強主径線を横断するように切開を入れて、乱視を矯正する手術のことです。

【RK手術による近視矯正の効果】

RK手術による矯正量が、誤差プラスマイナス1D(ジオプター)の範囲内で予測値に入る可能性は、60ないし70パーセントであるとされています。

矯正量が6D以下の場合には、予測値と術後の値とがおおむね一致していましたが、矯正量が増加するにつれて誤差が大きくなり、角膜の混濁も増強する傾向があります。

RK手術は、1970年代ないし80年代から盛んに行われ始めた手術であるため、長期予後は不明です。

【RK手術の適応】

RK手術の適応があるのは、2Dを超える不同視、2Dを超える角膜乱視、3Dを超える屈折度の安定した近視とさています。

強度近視のため、オプティカルゾーンを3ミリメートル未満にしたり、本数を16本よりも多くしなければ、矯正効果が得られないと予想される場合は、原則として、RK手術の適応外であるとされています。

RK手術の禁忌は、感染症やアレルギーによる外眼部の炎症、ドライアイ、円錐角膜、緑内障、白内障、ブドウ膜炎(眼内の炎症)、創傷治癒過程に問題があるような疾患等です。

屈折度の安定していない眼については適応がなく、20歳未満の患者は、一般に屈折度が安定していない場合が多いこと等から禁忌とされています。

【RK手術の実施方法】

RK手術を実施するに当たっては、RK手術の適応を判断し、適切な手術計画を立てるため、術前に、屈折度、矯正視力・裸眼視力、眼圧、角膜の厚み、角膜の形状、禁忌疾患の有無、視軸の位置等を検査します。
これらの術前検査をすべて行うには、1時間程度の時間が必要になります。

まず、術前検査で得られたデータを基に、どのように切開を入れるかという手術計画を立てることになります。手術計画を立てるに当たっては、術前の屈折度が一番重要なデータですが、他に、年齢、性別、眼圧も考慮することになります。

矯正量の調整は、切開の本数とオプティカルゾーンの幅によって行います。

切開の本数は、多いほど矯正量が大きくなりますが、切開の本数が多くなるほど角膜の強度が下がってしまうため、切開の本数は、16本が限界であるとされています。

また、切開は、これを上下左右対称にしなければ、不正乱視を誘発しやすくなるため、乱視が強い場合でない限り、切開の本数は、4本、8本、16本のいずれかにすべきであるとされています。

オプティカルゾーンは、これを狭くするほど矯正量が大きくなります。
しかし、一般に角膜の中央部に切開を加えると、それだけで強い視力障害を起こしやすく、RK手術においても、オプティカルゾーンの直径を3ミリメートル未満にした場合には、コントラスト感度の低下、グレア障害、不正乱視等の視力障害が生じやすくなります。

また、不正乱視の程度によっては、矯正視力が低下することもあります。

そのため、術者がRK手術に熟練している等、特段の事情がない限り、オプティカルゾーンは3ミリメートル以上確保すべきであるとされています(3ミリメートルという数値は、通常の明所における瞳孔径と一致するものです。)。

【手術の実施方法】

角膜上に視軸及びオプティカルゾーンをマーキングした上で、手術計画に従った切開をメスによって入れます。
手術実施者は、具体的な切開の入れ方について、次のような点等を注意しなければなりません。

  • オプティカルゾーンを3ミリメートル以上確保する一方で、十分な矯正効果を得るために、切開は、角膜輪部(角膜と鞏膜の境界部分)近くにまで伸ばす。ただし、角膜輪部には血管があるので、切開は、角膜輪部より0.5ミリメートルほど内側までで止める。
  • 切開の深さ・長さ等が不規則だと、矯正量が予測値からずれたり、コントラスト感度の低下、不正乱視を起こす原因になり、矯正視力の低下をもたらすこともあるから、まっすぐとした切開を入れる。
  • 矯正効果を得るために、切開の深さは、角膜厚の80パーセントから90パーセントくらいとする。
  • 切開の幅は、広くするほど矯正量は大きくなるが、その一方で、広くするほど術後の創傷治癒が遅れたり、角膜の強度が落ちたりすることがあるので、広くしすぎないようにする(切開の幅は、通常RK手術に用いるダイヤモンドメスの幅で決まる。)。
  • T切開を行う場合には、これとRK切開とを交差させると、その部分で切開が広がったり、強い斑紋収縮を惹起することがあるので、T切開とRK切開とは交差させない。
【合併症とその原因等】

RK手術の主な合併症及びその原因には、つぎのようなものがあります。


  • 過矯正:手術によって得られた矯正量が、患者の必要とする矯正量より多すぎた場合のことです。手術計画が不正確であったり、手術計画が正確であっても、これに従った切開の入れ方(オプティカルゾーン、切開の深さ等)をしていない場合には、過矯正となることがあります。

  • 不正乱視:不正乱視とは、乱視の中でも、角膜の形状が不正な状態にある場合のことです。これが生じると、グレア、コントラスト感度の低下の原因にもなりますし、不正乱視の程度によっては、矯正視力の低下を招くこともあります。不正乱視は、切開の深さや形状が不規則であったり、オプティカルゾーンが狭かったりした場合に生じやすいとされています。

  • 矯正視力の低下:矯正視力の低下とは、眼鏡等によって得ることのできる最良の視力が低下することです。不正乱視(角膜の形状が不正な状態)が原因である場合が多いとされています。不正乱視が、切開の深さや形状が不規則であったり、オプティカルゾーンが狭かったりした場合に生じやすいことについては前記のとおりです。

  • コントラスト感度の低下:コントラスト感度とは、白と黒の境界を識別する能力のことです。RK手術後にコントラスト感度が低下した場合でも、RK手術から1年を経過すれば相当程度回復することが多いですが、夜間におけるコントラスト感度の低下は回復しない場合が多いとされています。切開の深さや形状が不規則であったり、オプティカルゾーンが狭かったりした場合に生じやすいとされています。

【グレア】

光を非常にまぶしく、又は、見づらく感じることです。
角膜に加えた切開により光が乱反射することで生じる現象です。

角膜に部分的な濁りがあったり、白内障であったり等、眼内に光が入る部分に濁りがあることを原因とする場合がある一方で、角膜の表面に不正があったり、傷があったりした場合にも生じることがあります。

RK手術においては、オプティカルゾーンが狭い場合、切開本数の多い場合に生じやすいとされています。

【スターバースト】

夜間に車のヘッドライトなどの光が、放射状に散乱して見える現象であり、オプティカルゾーンを狭くした場合に生じやすいとされています。

【不同視】

左右の視力に大きな差が生じることです。

【夜間視力の低下】

夜間の視力は、通常でも昼間の視力より低下しますが、低下の程度が通常より大きい状態のことです。

RK手術においては、切開が瞳孔領に及んだ場合に、これが眼内に入る光の量を減らし、夜間視力低下の原因になります。

【RK手術による合併症の有無、程度についての検査】

矯正視力を測定するに際しては、球面レンズと円柱レンズが用いられます。

球面レンズは、遠視又は近視を矯正するレンズです。
凸レンズは遠視を矯正するレンズであり、検査数値上はプラスとして表記されます。
凹レンズは近視を矯正するレンズであり、検査数値上はマイナスとして表記されます。
なお、レンズの度数の単位は、D(ジオプター)である。

円柱レンズは、乱視を矯正するレンズであり、球面レンズと同様、凸レンズと凹レンズがあります。
被検査者の視力を矯正するために用いたレンズの種類、度数により、被検査者の遠視や近視の有無・程度、乱視の有無・程度、強主径線が表されます。

屈折値の他覚検査においても、検査結果は同様の方法で表されます。

SRI(球面不正指数)は、角膜表面曲率の不正を示す指標、SAI(球面均整指数)は、非対称性を示す指標であり、これらによって不正乱視の有無、程度を知ることができますし、これら指標と矯正視力の低下との間には相関関係があります。

正常眼での値は、SRI0?0.75、SAI0?0.53です。

【裁判所の判断】

オプティカルゾーンを3ミリメートル未満とした場合には、矯正視力の低下、コントラスト感度の低下、グレア等の視力障害が生じる危険が大きいから、医師は、RK手術を実施するに当たり、オプティカルゾーンを3ミリメートル以上確保すべき注意義務を負っていたものであり、また、切開にゆがみがあると、矯正量が予測値からずれたり、矯正視力の低下、コントラスト感度の低下といった視力障害が生じやすくなるから、切開を直線に入れるべき注意義務も負っていたものというべきであると判断しました。

そして、オプティカルゾーンを3ミリメートル以下とし、かつ、湾曲した切開を行った点において、医師に上記注意義務違反があったことは明らかであると認定しました。

また、RK手術以外に視力の変化を生じさせる原因は見出し難いことに加えて、RK手術において、オプティカルゾーンを3ミリメートル未満にしたり、湾曲した切開を入れると、矯正視力の低下、コントラスト感度の低下、グレア等の視力障害が生じやすくなることを考え合わせると、矯正視力の低下、コントラスト感度の低下等の視力障害は、医師がオプティカルゾーンを右眼1.8ミリメートル、左眼2.0ミリメートルとし、左眼に湾曲した切開を数本入れたことによって生じたものであると推認されると判断しました。

以上を前提に、裁判所は、1,588万円の支払いを命じました。

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