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医療過誤

カテーテル挿入術のミス

  • 血漿交換術において行われたカテーテル挿入術のミス
  • 大阪地裁平成16年2月16日判決を参考
  • 1億3,000万円の支払いを命じた事例

ケース

【入院直後の治療】

母は、1月21日から、40度に及ぶ発熱及び全身倦怠感が続いたため、近所の病院で受診し、感冒薬の処方を受けました。
ところが、母の症状が一向に改善しなかったため、1月24日、地域病院に入院しましした。
医師は、母の症状や血液検査の結果から、劇症肝炎を発症している疑いがあると考え、1月25日、母を総合病院に転院させました。

転院先の病院の検査で、母は、肝不全に加え、腎不全が合併した状態であることが判明し、B型肝炎が劇症化した状態であると診断されました。
そこで、転院先の医師は、右鼠径部から大腿静脈を穿剌し、血液回路アクセス用カテーテルを留置してルートを確保し、同ルートを使用して血漿交換を行うとともに、肝不全に対する投薬治療を行い、高アンモニア血症に対する投薬治療も行いました。

また、医師は、母が脱水状態で無尿に陥っていたため、輸液による循環血液量の適正化を図りましたが利尿効果が得られず、さらに低量ドーパミン、利尿剤の投与を行いまいした。

【1月26日の治療】

1月26日には、肝細胞の破壊は少なくなったものの、総ビリルビンは上昇するなど、肝機能は改善しませんでした。
そして、夕方ころには意識障害、羽ばたき振戦などの肝性脳症の症状が現れ始め、再度血漿交換が行われました。

一方、腎不全についても、無尿状態が続き、夕方には循環血液量が増え、肺水腫の状態(溢水傾向)も現れるなど、腎機能の改善が認められませんでした。

そこで、医師は、水分管理及び急性腎不全に対する対症療法として、右鼠径部のルートを使用して、CHDFを開始しました。

その後も母の症状は改善することはありませんでした。

【1月27日以降の治療】

医師は、1月29日、血漿交換及びCHDFを行い、同月30日、CHDFを行いましたが、母の右鼠径部に確保されたルートが閉塞しました。

医師は、右鼠径部のルートを5日間使用しており、同じルートの使用を継続すると、再閉塞やルート感染の危険があると判断し、左鼠径部を穿剌して新たにルートを確保しましたが、このルートも、1月31日午前には閉塞しました。

医師は、上半身にCHDFのための新たなルートを確保することにしました。
医師は、まず鎖骨下静脈へのカテーテル挿入を試みたが、穿刺がうまくいかなかったことから、内頚静脈からカテーテルを挿入する方法に変更しました。

医師は、他の医師の協力を得ながら、内頚静脈を穿刺し、カテーテル先端部及び脱血孔が上大静脈内に留置されるようブラインド操作でカテーテルを挿入した上、十分に脱血できることを確認し、カテーテルを固定しました。

医師は、同日午後7時46分ころ、自分の想定どおりの位置にカテーテルを挿入できているかを確認するため、胸部レントゲン写真の撮影を行ったところ、カテーテル先端部が鎖骨下静脈と内頚静脈の合流地点にあり、脱血孔は同地点よりも数cm内頚静脈側に位置していました。

医師は、カテーテルが自分の想定していたよりもやや浅く位置しており、脱血不良をより起こしにくくするためには、脱血孔を上部静脈内に留置する方がよいと考えたものの、当時の留置位置でも十分な脱血が得られていたことから、とりあえずはそのままの位置でCHDFを行い、その後に脱血不良が生じれば、その時点でカテーテルの位置を修正することとしました。

その後、CHDFが脱血不良を数回起こしたこと、カテーテルの位置はやや浅めであったことから、カテーテルの脱血孔を流血量のより多い位置へ移動させることにしました。

医師は、レントゲン写真で、カテーテル先端部から右心房までの距離が10cmくらいであることを確認した上、カテーテルを約2cmずつ進行させ、スムーズに脱血できるかを視認するという方法で脱血量を確認しながら、4、5回程度カテーテルを右心房の方向に移動させ、十分な脱血量を得ることができたと考えた位置に留置しました。
ただし、医師は、新たに胸部レントゲン写真を撮影して、カテーテル先端部の正確な位置を確認しませんでした。

同日午後11時58分ころから、それまで正常であった母の血圧が上93・下51に急激に低下し、午前0時ころには血圧上69・下39、脈拍数毎分45回となり、午前0時3分ころに心停止に陥りました。

母は、その後の蘇生術により一命をとりとめましたが、心停止に伴う低酸素脳症により遷延性意識障害に陥り、現在も回復していません。

質問

医師がカテーテルの位置を心臓に近づけた際に、レントゲンによりカテーテルの位置を確認してくれていれば、心臓内部で出血していることを発見することができ、母が心停止に陥ることはなかったと思います。

現在が母が寝たきりになっているのは、医師によるカテーテル挿入術にミスがあったからです。この医師に責任はないのですか。

説明

【カテーテル挿入部位】

CHDF(continuous hemodiafiltration: 持続的血液濾過透析の略)を施行する場合のカテーテルの挿入部位は、大腿静脈、鎖骨下静脈及び内頚静脈のいずれかとするのが一般的です。

大腿静脈からのカテーテル挿入は、挿入が比較的容易で、重大な合併症が少ないという長所がある一方で、挿入部位の清潔を保ちにくいなどの短所があります。

鎖骨下静脈からの挿入は、挿入部位の清潔が保ちやすいなどの長所がある一方で、気胸や血胸などの重大な合併症を生じる危険があります。

内頚静脈は、穿剌が比較的容易であり、気胸の生じる危険も少ないですが、頚動脈を誤穿刺する危険があるなどの短所があります。

【カテーテルの挿入位置】

鎖骨下静脈や内頚静脈からカテーテルを挿入する際には、カテーテルの先端部を右心房内に留置すると、不整脈を生じることがある上に、カテーテル先端部によって、比較的薄い右心房の内膜を穿孔し、心タンポナーデを合併する危険があります。
ですから、鎖骨下静脈及び内頚静脈からカテーテルを挿入する場合のカテーテル先端部の適正な留置位置は、上大静脈内であるとするのが一般的です。

他方、CHDFは、一分間当たり60から100mlの血流量で行われるのが通常であるため、カテーテルの脱血孔を流血量の多い血管内に留置することになります。
そして、血管内の流血量は、一般に、大腿静脈からカテーテルを挿入した場合に留置する下大静脈などの血管よりも上大静脈の方が多く、さらに上大静脈よりも右心房内の方が多いため、CHDFの治療目的を達するためには、鎖骨下静脈又は内頚静脈からカテーテルを挿入する場合、流血量の多い右心房内あるいはその近くにカテーテルの脱血孔を留置せざるを得ない場合がないとはいえず、カテーテル先端部を右心房内)へ留置することが絶対に許されない手技であるとまではいえません。

ただし、心筋穿孔及び心タンポナーデを合併する危険性があり、カテーテル先端部が右心房底部又はこれに近い位置にあれば、右心房底部に心筋穿孔を生じる危険性が一層高くなります。
右心房内の流血量は、右心房内のどこであってもそれほど大きく異なるわけではなく、右心房内のどこにカテーテル先端部を留置するかによって脱血に必要な血液量を確保できるか否かが異なるものではありません。

【裁判所の判断】

CHDFの治療目的から流血量を確保する必要性があり、右心房内にカテーテルの先端部を留置することが許されるとしても、その留置位置については、心筋穿孔及び心タンポナーデを合併する危険性に十分注意し、その危険性ができるだけ少ない場所にすべきであり、くれぐれもカテーテルの先端部が心房底部附近など、心筋穿孔を生じる危険性が高い位置に留置することのないように注意しながら留置すべき注意義務があるというべきであると判断しました。

そして、カテーテルの先端部を右心房内に留置することにより、心筋穿孔及び心タンポナーデを合併する危険性があることからすれば、カテーテルを心臓(右心房)の方向に向けて移動した上で先端部を留置するに当たっては、カテーテルの先端部の留置位置に十分注意すべきであり、具体的には、エックス線透視下でカテーテルを挿入し、あるいは、ブラインド操作でカテーテル挿入後に胸部レントゲン写真を撮影するなどして、カテーテル先端部の留置位置を十分確認し、右心房内の底部又はこれに近い位置など、心筋穿孔を生じる危険性が高い場所にカテーテル先端部が留置されていることを認めた場合には、カテーテルを引き戻すなどして、心筋穿孔を起こす危険性のない位置に留置するよう、その位置を調整すべきであるとされました。

この結果、エックス線透視下でカテーテルを挿入する、ブラインド操作でカテーテル挿入後に胸部レントゲン写真を撮影するなどして、カテーテル先端部の留置位置を確認しなかった医師に責任があるとして、約1億3,000万円の損害賠償を命じました。

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