個人のお客様

医療過誤

説明不足による手術適応性の否定

  • 治療に関する説明不足による手術不適応
  • 東京地裁平成16年3月31日判決の事例を参考
  • 1,160万円の支払いを命じた事例

ケース

【治療の経緯】

私の妻は、平成10年11月、ろ胞性大細胞型B細胞に分類される中悪性度非ホジキンリンパ腫であると診断され、入院することになりました。

妻は、入院後、抗癌剤治療を受け、平成11年3月末ころには、完全寛解にあると判断され、退院しました。

妻は、退院後も継続して外来診察を受け、検査を受けていました。

妻は、平成12年2月3日、MRI検査及びCT検査を受けたところ、下大静脈背側、上腸間膜動脈周囲、左腸間膜に病的腫瘤の形成が認められ、悪性リンパ腫の再発病変の可能性があり、脾臓部分には、MRI検査では異常信号が、CT検査では低吸収域が認められ、脾臓への悪性リンパ腫の浸潤が疑われると説明されました。

妻は、平成12年2月8日、CT検査及びMRI検査の結果、腫瘤が3か所認められ、悪性リンパ腫の再発と考えられること、以前と同じ治療をしても再発の確率は高く、また、再発までの期間が短期間であったので病気の性質は悪いこと、治療法としては、抗がん剤のほかに末梢血幹細胞移植といって自分の造血細胞を冷凍保存して抗がん剤治療の後に幹細胞の移植をするという方法があるとの説明を受けました。

そして、妻は、まず、数回抗がん剤の治療を始めて、その治療の効果が認められていれば、幹細胞移植を実施するという方法を検討してみたいこと、100%の治癒は保証できないが、チャンスはあると思うと説明されました。

【ESHAP療法等】

妻は、2月17日から5日間にわたり、ESHAP療法を受け、3月8日にGaシンチとCT検査を受けたところ腫瘍の縮小傾向が認められたものの、13日のMRI検査では腫瘍の大きさ、位置に著明な変化はありませんでした。

妻は、3月21日から5日間にわたり、ESHAP療法を受けたところ、24日ころから、嘔気がこれまでになく強まりました。
その後のMRI検査、CT検査では変化が認められなかったものの、Gaシンチによると腫瘍陰影が若干改善傾向にあることが認められました。

妻は、4月19日から5日間にわたり、ESHAP療法を受け、強い嘔気や倦怠感が生じました。
なお、その後のCT検査、MRI検査、Gaシンチでは、著明な変化は認められませんでした。

【末梢血幹細胞移植手術の説明】

妻は、5月8日、妻に対し、末梢血幹細胞移植手術を5月末から6月初めに予定していること、移植にともなう腎機能の低下、感染症、肝障害、出血傾向、心不全等の合併症などについて説明を受けました。

妻は、5月25日、末梢血幹細胞移植による治療のスケジュール、白血球が回復してくるまで副作用が続くことが多いこと、3回目のESHAP療法後のCT検査、Gaシンチでは腫瘍にほとんど変化はなかったことなどについて説明を受けました。

【末梢血幹細胞移植による治療の開始】

妻は、5月27日から、末梢血幹細胞移植による治療を受けました。本件治療の開始直後から副作用が現れ、30日からは、胃部不快、激しい嘔気に悩まされていました。

6月1日の朝から、妻にふらつきがみられるようになり、洗面所に行く際に転倒し、顔面を強打しました。
6月2日にも妻のふらつきは改善せず、3日にはベッド柵を外して1人で移動し、ベッドサイドに倒れこんでいるところを発見されました。

妻は、6月5日、自己末梢血幹細胞が輸注されましたが、6日には腎機能、肝機能が顕著に悪化し、7日には心不全と診断されました。
そして、妻は、腎機能、肝機能、心不全に改善が見られず、7月5日に死亡しました。

質問

妻は、抗癌剤治療を受けていたときから大変苦しそうにしていましたから、そのような妻に末梢血幹細胞移植による治療は適しておらず、この治療により妻は亡くなったと思うのです。
このような治療を選択した医師に責任はないのですか?

説明

【サルベージ療法】

抗癌剤治療は、癌細胞のDNAに作用し、細胞分裂させない事で細胞を殺す治療方法です。

癌細胞は、特定の化学物質に耐性を持つ特性があるため、耐性を容易にもてないようにするため、通常多剤を併用することになります。
通常は、CHOP(シクロホスアミド、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ビンクリスチン、プレドニゾロンの4種類の薬の頭文字)療法が採用されています。

悪性リンパ腫が再発するということは、これまで使用してきた抗がん剤が効かなくなったという可能性があります。
そこで、これまで使用していない抗がん剤の組み合わせによるサルベージ療法という治療が一般的に行われます。

なお、ESHAP療法とは、CHOP療法が効かなかったときの第2ステージの治療として最も一般的な治療方法です。エトポシド、ソルメドロール、ハイドース、アラシー、カルボプラチンを用いた治療です。

【末梢血幹細胞移植】

悪性リンパ腫が再発した場合、がんがこれまでの抗がん剤に抵抗性を持ったと考えられるので、もっと強力な薬で治療することになります。

しかし、強い抗がん剤で治療をすればより多くのがん細胞を死滅させることができますが、同時に幹細胞も死滅させることになるため、血液を造ることができなくなります。

そこで、自分自身の幹細胞をいったん外で保存しておいて、抗がん剤でがん細胞を殺した後、体に戻す幹細胞移植が行われるのです。

【末梢血幹細胞移植の効果】

末梢血幹細胞移植は、中悪性度非ホジキンリンパ腫再発の症例に対しては、通常量サルベージ療法でPR(部分寛解)以上の効果がある場合に、良好な結果が得られるとされています。

文献では、通常量サルベージ療法に対する反応性が重要な予後因子となるなどと指摘するものもあり、中悪性度非ホジキンリンパ腫再発の患者の場合、2年生存率が5ないし10%であるとか、どのような治療を行っても予後不良であるなどと指摘する文献もあります。
他方、通常量サルベージ療法によりPRに至らない患者に対しても、本件療法を行うことによって、一定の生存率が得られる場合があると指摘する文献もあります。

また、末梢血幹細胞移植療法は、再発治療抵抗性の非ホジキンリンパ腫に対する有効な治療法として多く用いられてきており、本件のような症例に対して治癒の可能性のある治療法はこれだけであると指摘されています。

【裁判所の判断】

中悪性度非ホジキンリンパ腫の再発後、通常量サルベージ療法を受けてもPRに至らない患者については、未だ本件療法の有効性が確立しておらず、有効でないとする見解も少なくないということができる。

しかも、本件療法について、臓器機能が保持されていない症例、全身状態が低下している症例を「不適切な施行対象」と指摘する文献もあり、患者には、本件治療開始時点において腎機能の低下が一定程度認められた。

さらに、本件療法の副作用による苦痛や合併症はかなり重度のものであり、その副作用により死亡する可能性も少なくないことが認められる。

もっとも、本件患者のように、中悪性度非ホジキンリンパ腫の再発後、通常量サルベージ療法を受けてもPRに至らない患者については、その予後は極めて不良であり、救命ないし延命の可能性を追求するとすれば、その治療法としては本件療法しかなく、本件療法の実施によって救命ないし延命が実現した例もないわけではないとの限度では、医学的にほぼ異論のないところである。

しかも、前提事実等のとおり、本件患者については、1回目のESHAP療法の後のGaシンチとCT検査により腫瘍の縮小傾向が、2回目のESHAP療法の後のGaシンチにより腫瘍陰影の若干の改善傾向がそれぞれ認められたのであり、本件患者に対する通常量サルベージ療法に全く効果がなかったとまで評価することはできない。

ただし、3回目のESHAP療法によっては腫瘍の改善傾向が認められなかったことに留意する必要はある。

本件患者に対する本件療法の実施は、本件患者において、本件療法につき、説明を受けることによって、その有効性の有無ないし程度や死亡を含む副作用の危険性及びこれを受けない場合の予後等について十分認識した上、治癒の可能性に賭けてこれを受けることを了承した限りにおいて、是認されるというべきであり、そのような了承が認められない以上、これを実施してはならなかったというべきである。

本件患者は、本件治療開始直後から副作用の症状を生じ、自己末梢血幹細胞が輸注された翌日から腎機能、肝機能が顕著に悪化し、心不全も生じた上で、これらに改善が見られないまま、多臓器不全で死亡した。

このような経過に照らすと、本件患者は、本件治療(とりわけ自己末梢血幹細胞移植)の副作用により死亡したのであり、本件治療が実施されなかったならば本件当日に死亡することはなかったものと推認される。

そうすると、前記の義務違反と本件患者の死亡との間には相当因果関係があると認められるとして、約1,160万円の損害賠償を命じました。

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