個人のお客様

医療過誤

説明義務違反

  • 脳動脈瘤のコイル塞栓術に関する説明義務違反
  • 東京地裁平成14年7月18日判決の事例を参考
  • 6,637万円の支払いを命じた事例

ケース

【手術の決定】

父は、12月18日、造影3次元CT検査を受け、E医師により左内頸動脈分岐部脳動脈瘤が存在することが確実であると判断されました。

父と私、母は、12月22日、医師から父の症状についての説明を受け、未破裂脳動脈瘤の治療計画を立てる上で必要となる脳血管撮影の説明を受けました。
そして、父は、翌年1月18日に検査のため入院し、19日に脳血管撮影を受け、翌20日に退院しました。

私たちは、1月26日、開頭手術及び血管内手術の危険性等について、「?未破裂脳動脈瘤を放置した場合年間約2%の確率で破裂し、今後20年で40%の確率で破裂する可能性があるが、60%の確率で破裂しない可能性もあること、?治療の方法としては開頭手術とコイル塞栓術があること、?開頭手術及びコイル塞栓術の手技、?開頭手術では、95%が完治し、5%程度後遺症が残る可能性があること、?コイル塞栓術では、手術後コイルが患部から逸脱して脳梗塞を起こす場合もある。」という説明を受けました。

そして、私たちは、医師から、脳動脈瘤をそのまま放置し手術をしない方法、開頭手術をする方法、コイル塞栓術を行う方法のどれを選択するのがよいかを考えるように指示されました。

私たちは、2月23日にも、医師から、MRI検査や脳血流シンチグラム検査結果の説明を受けるとともに、1月26日と同様の説明を受けました。
なお、医師は、脳神経外科医でありコイル塞栓術の手技に対して分からない面もあることから、コイル塞栓術を勧める方向で説明をすることはありませんでした。

私たちは、このような説明を踏まえて、コイル塞栓術では術後脳梗塞を起こすおそれがあり将来的に不安が残ると考え、開頭手術を受けることを希望しました。

【手術の変更】

父は、2月27日、手術のため入院したところ、「開頭手術はなるべく避けたいので先にコイル塞栓術を行ってみてはどうか。」、「開頭手術に比して侵襲が低い。」と医師から勧められました。

さらに、医師は、「コイル塞栓術は、血管造影のときと同じ方法で血管内にカテーテルを通して行うものであり、自身被告病院で十数例実施したが全て成功している。」、「うまくいかなかったときは直ちにコイルを回収して、また新たに方法を検討しましょう。」といった説明をしました。

これに対し、父は、「従前の説明で術後に脳梗塞を起こすおそれがあると聞いていたが、その危険性はどうなのか。」という質問をしたところ、F医師は、「挿入が難しいようであれば無理はしません。」というように返答しただけでした。

また、コイル塞栓術による合併症については、カテーテル、コイルによる血栓形成から梗塞を引き起こす可能性があること、動脈瘤の破裂によるくも膜下出血、脳内出血の可能性があること、2から3%の割合で死に至る可能性があることの説明も受けました。

そして、父は、コイル塞栓術を受けることになったのです。

【手術の実施】

医師は、2月28日、右大腿部からガイディングカテーテルを導入し、その中にトラッカーカテーテルを挿入し、その先端部をガイディングカテーテルの先端部よりさらに先の脳動脈瘤内に進め、脳動脈瘤を造影した後、約半分を脳動脈瘤内に挿入したそうです。

しかし、このコイルが脳動脈瘤外に逸脱して内頸動脈内に移動し、中大脳動脈及び前大脳動脈を塞栓する可能性があると判断されたため、コイル塞栓術の中止とコイルの回収を決めたそうです。

医師は、コイルと接合部で接合しているデリバリーワイヤーを引きコイルを回収しようとしましたが、コイルが伸びてしまい回収できませんでした。

さらに、リトリーバーを用いてコイルを回収しようとしたが全部を回収することができず、リトリーバーによるコイルの回収作業は中止されました。

コイルは、脳動脈瘤から大動脈にかけて残存し、その先端部分が脳動脈瘤から内頸動脈に一部移動したことにより中大脳動脈の血流が悪化しました。

そこで、医師は、開頭手術によりコイルの回収を試み、コイルの一部を摘出して脳動脈瘤クリッピング手術を行いました。しかし、開頭手術によってもコイルを全部除去することはできませんでした。

そして、父は、3月13日、残存したコイル及びこれによる血流障害によって惹起された脳梗塞により死亡しました。

質問

父は、当初から開頭手術を希望していたにもかかわらず、医師に勧められるままコイル塞栓術を受けました。
医師としては、これを早期に発見し、夫の症状が悪化しないようにすべき義務があったと思います。
その結果、コイルが脳大動脈に残るということになり、それが原因で父は亡くなりました。

父や私たちは、コイル塞栓術について十分な説明を受けていませんし、そもそも、父にコイル塞栓術を選択したことに誤りがあったのではないかと思います。
また、コイル塞栓術を適切に行わなかった点にも問題があると考えています。

父がなくなったことについて、医師や病院に責任はないのですか。

説明

【未破裂脳動脈瘤の手術適応】

未破裂脳動脈瘤を手術すべきか否かについては、手術しない場合の破裂率、破裂した場合の予後(重度障害ないし死亡の結果を生じさせる危険性)、手術した場合の予後(重度障害ないし死亡の結果を生じさせる危険性)等の多数の要素を勘案して、その得失を判断しなければならないとされています。

未破裂動脈瘤が破裂した場合の予後は、死亡率や後遺症が残る可能性が高いなど極めて悪いとされています。

他方、開頭手術をした場合の予後については、低い死亡率と低い障害発生率が報告されています。
そして、未破裂脳動脈瘤については、患者のインフォームドコンセントを前提にし、年齢、手術による神経症状出現の可能性が少ない、重篤な全身合併症がない等の条件の下、手術を積極的に施行することが一般的に勧められています。

ただ、脳ドックにて発見された未破裂脳動脈瘤がすべて治療の対象とされている訳ではなく、患者の年齢、合併症を考慮して、高血圧のコントロールなどで保存的に観察されている例も少なくなく、患者の高齢化に伴う手術合併症は決して少なくない可能性を考慮して、安直な手術適応は厳に戒めるべきといった、慎重論も存在します。

【東京地裁の判断】

判決では、お父さんにコイル塞栓術を行う必要がないとはいえず、手術に対する適応性が認められことから、開頭手術と比較して低侵襲なコイル塞栓術を選択したことについて医師に過失がないとされました。

しかし、次のように医師の説明義務違反が認められました。

一般に、治療行為にあたる医師は、緊急を要し時間的余裕がない等の格別の事情がない限り、患者において当該治療行為を受けるかどうかを判断決定する前提として、患者の現症状とその原因、当該治療行為を採用する理由、治療行為の内容、それによる危険性の程度、それを行った場合の改善の見込み、程度、当該治療行為をしない場合の予後等についてできるだけ具体的に説明すべき義務があるというべきであるとされ、本件のように患者の生死に係わる選択を迫る場合には、当該手術による死亡の危険性について当該患者が正確に理解し、当該手術を受けるかどうかをその正確な理解に基づき決定することができるだけの情報を提供する義務を負っているというべきであると判断しました。

また、医師は、本件手術を受けることにより死亡に至る危険性を、お父さんに対して十分に且つ正確に認識させることができなかったと認定し、お父さんが、本件手術による死亡の危険性について正確に理解し、本件手術を受けるかどうかをその正確な理解に基づき決定し得たと認めることが困難であるとしました。

そして、医師に説明義務違反を認め、説明義務が尽くされていれば、お父さんが本件手術を受けなかった可能性が高く、仮に本件手術を受けなければ本件手術中の原因不明の事故による死亡の結果も生じなかったとして、約6,637万円の損害賠償を命じました。

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