医療過誤
医療過誤

医療過誤の法的責任

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医療過誤の法的責任

2つの法的責任

2つの法的責任医療過誤は、医療側が過失により患者に危害を加えるものであるという点で、交通事故で過失により被害者に危害を加える行為と同様の行為といえます。このように過失により第三者に損害を与える行為を不法行為といいます。

民法709条には、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定されています。
この規定は、不法行為による損害賠償義務を規定した規定で、特定の行為、損害の発生、特定の行為と損害との因果関係、行為者の故意・過失がある場合には、行為者に損害賠償責任を負わせることを定めているのです。
ここで、行為者の過失が認められるためには、結果に対する予見可能性と結果を回避する可能性がなければならないとされています。このように、医療過誤は、まずもって不法行為に基づく損害賠償義務を定めた民法709条により損害賠償を求めることができるのです。

他方、患者は、診察・診断・治療などを求めて病院を訪れ、医療側としては患者の求めに応じて、診察・診断・治療などを行うわけですから、そこに診療契約の申込みと承諾があるわけです。契約は、契約書が作成されなくても、申込と承諾さえあれば成立します。 そして、前記したように患者と医療側との間にも、診察・診断・治療など申込みがあり、医療側はこれを承諾して診察などがはじまるわけですから、そこに診療契約が成立しているのです。

これを前提に、医療過誤があった場合には、患者と医療側の診療契約上の義務違反ともいえ、診療契約に基づく損害賠償請求を求めることも可能になるわけです。

診療契約の内容

民法には、売買契約、賃貸借契約、請負契約、委任契約などの様々な契約についての規定がありますが、診療契約について特に規定を設けていません。では、診療契約は、法的にどのような性格をもつ契約なのでしょうか。

診療契約は、診療行為を遂行すること自体を内容とする債務を負担するという準委任契約であると明示する裁判例があります(東京地裁昭和46年4月14日判決)。

この裁判例は、重篤仮死状態で生まれた新生児が死亡した事件に関するものですが、診療契約の内容から見れば、出産と他の治療とは異なるところがないとし、「基本的に通常の病気についての診療契約において医師は患者に対し病気を診察治療することを約しうるにとどまりこれを治癒させることまでは約しえないのが通常の事例であり、右契約における医師の債務は特約のない限り前者の行為をすることにあると解されるのと同様、産科医にあっても、かならず児母ともに健全な状態での出産に至らしめる責任を負うことは不可能であって、通常右のような状態での出産に至らしめることまでも約するものではなく、前記のような診療介助を行なうことを約するにとどまると解するのが社会常識上妥当であると考えられる。」と判示しています。

そして、この東京地裁の判決は現在でも維持されており、裁判において診療契約は、このような内容のものと理解されているのです。

診療契約の成立

診療契約は、患者が診察・診断・治療などを求めて病院を訪れ、医療側が患者の求めに応じて診察をはじめれば、成立したといえます。

契約の当事者は、患者本人(患者が未成年の場合には親)と、開業医の場合には医師個人との間に成立し、病院の場合には病院設置者との間に成立します。ですから、開業医の場合には、医師個人が、病院の場合には病院の設置者が診療契約上の法的責任を負うことになるのです。

診療契約が成立した後、つまり患者が治療の途中で意識を失った場合には、既に成立している診療契約はどのようになるのでしょうか。

医療を受けるのは患者本人であること、最初の診察の段階で患者に対し病気を診察治療することを医師が約束していることを考えると、医師あるいは病院と患者との診療契約が継続していると考えて問題ありません。

では、患者が診察を受ける段階で既に意識がない場合には患者本人が申込みを行うことがないので、医師あるいは病院との間で診療契約が成立していると言えるのでしょうか。
この場合、配偶者や近親者がいるような場合には、その方に日常生活を営む上で必要な代理権が与えられていると考えられますので、配偶者や近親者を代理人として、患者本人と医師あるいは病院設置者との間で診療契約が成立しているといえます。

近親者の方がおらず、近所の方や通りすがりの方が患者を連れてきた場合には、どのように考えればよいのでしょうか。
通常、近所の方や通りすがりの方は、病院などに連れてくる意思はあったとしても、治療費を負担する意思まであるか疑問ではありますが、近所の方や通りすがりの方と医師や病院設置者との間に、患者のためにする診療契約が成立していると考えざるを得ないのではないでしょうか。

診療契約上の責任

medical-fig2.png診療契約の内容は、「患者に対し病気を診察治療することを約しうるにとどまりこれを治癒させることまでは約しえないのが通常の事例であり、右契約における医師の債務は特約のない限り前者の行為をすることにあると解される」(東京地裁昭和46年4月14日判決)とされており、必ずしも治癒させることが契約の内容になっていません。

診療契約において医師が行うべき法的義務は、医師が最善を尽くして本来行うべき治療を適切に行うというものであり、逆にいえば、医師が注意を尽くせば危害の発生を予測することができ、その結果を回避することができたにもかかわらず、これを行わなかったという場合が診療契約上の義務を履行していない場合といえるのです。

ですから、医師や病院設置者の診療契約上の義務違反というのは、先に説明した不法行為に基づく損害賠償責任を追及する場合と重なりあってくるのです。
つまり、不法行為に基づく損害賠償が認められるときには診療契約上の義務違反が認められ、診療契約上の義務違反が認められるときには不法行為に基づく損害賠償が認められる関係にたつといえるのです。

ただ、神戸地裁平成9年8月27日「胎児死亡事件」判決では、「診療契約に基づいて医師や病院が負担する債務は、技術上適正に注意深い診療を実施すべき債務であり、その法律的性質はいわゆる手段債務であるが、診療の高度の専門性・特殊性に照らし、右医師の債務は、患者によって希望された診療目的の達成を目標として、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準を基準とする危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務をもって診療を行うべき債務であると解される。

そして、そのような医師の債務の特殊・専門性に照らし、右のような最善の注意義務を尽くした診療行為が何かについて患者側が知得することは一般的には極めて困難なことであり、他方、診療債務の内容である診療の目標には意外な結果を将来しないようにする意味が含まれており、医師の診療行為から意外な結果が発生した場合には、前記の最善の注意義務が尽くされていない蓋然性があるから、患者などの債権者側は医師の診療行為から意外な結果が発生したことの主張・証明責任を負うにとどまり(もっとも、右については、原因行為をできるだけ明らかにする必要はある。)、医師などの債務者側は、前記の最善の注意義務を尽くしたことを主張・証明しない限り、診療契約の債務不履行(不完全履行)の責任を免れないものと解するのが相当である。」と判示されており、診療契約に基づく債務不履行責任の主張立証責任を軽減されています。

しかし、この判決の存在により、全ての医療過誤訴訟において、不法行為に基づく責任を追及するより、診療契約の債務不履行責任を主張した場合の方が、主張・立証責任が軽減されるとまではいえないと考えています。

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