知的財産
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職務発明規定が存在しない、不合理な職務発明規定を設けた場合のリスク

cont_img_64.jpg職務発明規定が存在しない場合,あるいは,契約,勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には,対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況,策定された当該基準の開示の状況,対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して,その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められた場合には,その発明により使用者等が受けるべき利益の額,その発明に関連して使用者等が行う負担,貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定められる(特許法35条5項)ことになります。

では,特許法35条5項により相当対価の金額を定められた場合には,どのような事態に至るのか,知財高裁平成21年2月26日判決(平成19年(ネ)第10056号)に基づき検討したいと思います。

本判決では,使用者等(企業)が職務発明について法律で定められた無償の通常実施権(法定通常実施権)を有することを前提に,使用者等(企業)が特許発明を実施している場合に従業員等に対して支払うべき相当対価は,当該特許発明によって得られる売上から法定通常実施権によって得られる売上を差し引いた超過売上を得たことに基づく利益を基準に判断すると判示したうえで,法定通常実施権による減額控除を踏まえた,超過売上を得たことに基づく利益は,通常50〜60%程度の減額をすべきと判示しています。

また,本判決では,職務発明対価請求訴訟において,使用者等が特許無効の主張を行うことについて,相当の対価算定の一事情として特許権の無効事由を考慮することは許されると解されるとしつつも,発明者たる一審原告らから「特許を受ける権利」の譲渡を受けた一審被告が,同権利を特許権とすべくその後自らの責任において出願し取得した特許権につき,職務発明報酬請求訴訟において上記特許権につき無効事由があると主張することは,譲渡契約時に予定されていなかった事情に基づき譲渡契約の効力を過去に遡って斟酌しようとする点で背理であり,譲渡人たる従業者が特許無効事由があることを知りながら譲渡した等の特段の事情がない限り,許されないと解されると判示されています。

まず,特許法35条5項により相当対価の金額を定められることになりますと,客観的に無効理由が存在する特許発明であったとしても,当該特許発明を実施している場合には,無効理由があることを理由に相当対価の支払いを拒否することができなくなります。

また,法定通常実施権による減額控除を踏まえた,超過売上を得たことに基づく利益の算定が行われる場合,知財高裁の判決の影響を受けて,合理的な算出根拠が示されることなく,超過売上率が40〜50%と認定された上で,従業員と使用者との貢献割合で支払われるべき相当対価が算出されることになり,相当対価が高額化する可能性があります。

なお,本判決においては,超過売上高を「他社に対する禁止権の効果として,他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較してこれを上回る売上高」と定義し

  1. 超過売上を得たことに基づく利益は,通常は50〜60%程度の減額をすべきであること
  2. 他社での実施状況,代替技術又は競合技術
  3. ライセンスしている場合はその方針

などの事情を総合的に考慮して特許権者が当該特許権の禁止権による超過売上を得ているかどうかを判断すべきと判示しているものの,40〜50%の超過売上高という結論を導くにあたっては具体的な算出根拠をしめしていないと言えます。

特許法35条5項に基づく相当対価の算定は,企業にとって経営リスクとなるものですし,企業として職務発明を積極的に奨励しようとするインセンティブが削がれてしまうことにもなりかねません。
ですから,特許法35条4項に基づいて手続的に,補充的には内容的に合理的な相当対価の支払いを行い,訴訟リスクを回避する必要があり,そのためには,対象となる従業員等と協力して職務発明規定を設ける必要があるのです。

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