知的財産
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保護の要件

秘密状態で管理されていることが必須

営業秘密として保護されるためには、営業活動に関する情報に「秘密管理性」の要件が必要になるということは既に説明しました。 では、どのような場合に、「秘密管理性」の要件が認められるのでしょうか。

裁判例を整理しますと、次のようなことが問題となっています。

アクセス制限の有無

これは、対象となる情報への接触が制限されているか否かの問題です。
例えば、以下の処置が採られているか否かが問題となっています。

  • 保管庫に施錠がされているか否か
  • アクセスにパスワードが設定されているかどうか
  • 保管場所が特定され、閲覧者・閲覧時間が限定されているか否か
  • 管理者を設けているか否か
  • 管理教育が行われているか否か
  • 秘密保持規定
  • 持ち出し禁止・破棄措置等の就業規則
  • 誓約書等により情報漏洩禁止措置

以上のような事情を考慮して、管理されている情報の性質、保有形態、企業の規模等により個別に判断される傾向があります。

客観的認識可能性の不備

当該情報に接した者が当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていないために秘密管理性が否定された例があります。 ですから、客観的に見て秘密情報であることを示す文言を加えておく必要があります。

アクセス制限

営業秘密の要件である秘密管理性が認められる要因としてアクセス制限が行われている必要があると説明しました。

裁判例においてどのような事実が認められるとアクセス制限が認められるか、裁判例を概観するこで確認することにします。

コンピュータへのアクセス制限

営業秘密の対象となるデータが入ったコンピュータについてアクセス制限が加えられた上に、管理責任者による管理がなされていた事例において秘密管理性が認められています(大阪高判H14、10、11、東京地判H16、5、14参照)。

ユーザーIDとパスワードを設定していたこと(大阪地判H15、2、27)、毎月パスワードを変更していたこと(東京地判H11、7、23)が認められ秘密管理性が肯定された裁判例があります。

コンピュータが外部と接続されていない(東京地判H16、5、14)、そもそもコンピュータがネットワークと接続されていない(東京地判H17、6、27)事情が考慮されて秘密管理性が認められた事例があります。

物理的管理

カウンター内部に部外者が立ち入り禁止になっていた事情(大阪地判H14、10、1)、倉庫の鍵が取締役専用の部屋に設置された鍵箱において保管されていた事情(東京地判H16、5、14)が考慮されて秘密管理性が認められた事例があります。

顧客名簿を施錠保管していた上に、従業員立ち会いにより専門業者が廃棄を行って事例(東京地判H11、7、23)、文書廃棄業者と秘密保持契約を締結し、文書の廃棄作業を委託していた事例(東京地判H16、5、4)の事例において秘密管理性が認められています。

従業員等への指導

新入社員に対して、営業資料の目的外使用禁止指導をおこなっていた事情(東京地判H8、11、13)、営業秘密の漏洩禁止指導を行っていた事情(東京地判H16、5、14)を考慮して秘密管理性を認めた裁判例があります。

また、従業員を対象に営業秘密に関する事例紹介をする等の教育を行っていた事情を考慮して秘密管理性が認められた事例もあります(東京地判H17、6、27)。

規則等による管理

就業規則に秘密保持義務が規定されていること(東京地判H11、7、23)や、従業員から秘密保持の誓約書を取り付けていた事情(東京地判H17、6、27)を考慮して秘密管理性を認めた事例もあります。

業務終了後に、端末及びサーバーの電源を切るというマニュアルが設けられていた事情を考慮して秘密管理性が認められた事例(東京地判H16、5、14)があります。

以上で紹介した事例は、それぞれ列挙した事情のみで秘密管理性が認められたわけでありません。
しかし、これらの事情が大きな要素となって秘密管理性が認められたと評価できます。ですので、みなさんの会社においても、前記した裁判例を参考に秘密管理性の要件が充たされる体制作りが必要であると考えています。

秘密性の明示

営業秘密と認められるためには、客観的な「秘密管理性」の要件が必要であること、そして、「秘密管理性」の要素として、「アクセス制限」が行われていることが必要である点については、既に説明したとおりです。
裁判例を概観しますと、この、「アクセス制限」の他に以下のことが求められています。

  • 営業秘密の対象となる情報が他の情報と区分されていること
  • それが秘密情報であることが明示されていること

例えば、大阪地判H8、4、16や東京地判H17、6、27の事例においては、対象となる文書に「マル秘」マークが施されている事情を考慮して営業秘密であることが認められています。

他方、大阪地判H12、7、25や大阪高判H17、2、17の事例においては、「マル秘」マークが施されていなかったという事情を考慮して、営業秘密とは認められませんでした。
「アクセス制限」を行う前提として、対象となる情報が他から区別されているという要件は認められることになります。

しかし、それに加えて、対象となる情報に秘密情報であることを明記しておくことについても留意が必要でしょう。

有用性

不正競争防止法上の「営業秘密」というためには、秘密管理性に加えて、対象となる情報の有用性が必要になります。
つまり、不正競争防止法により、間接的であれ情報そのものが保護されることから、保護されてしかるべき情報としての価値が認められなければならないということです。

そして、不正競争防止法は、国民経済の健全な発展を目的とする法律ですので、保護されてしかるべき情報とは、「それを利用することにより経済的利益がもたらされる情報」であることが必要になります。
それを利用した場合の情報の経済的利益が不明な場合には、有用性が否定されます。

例えば、東京地判H14、10、1では、菓子材料の配合割合に関する情報について、その情報を用いた場合に品質が向上することの証明がないとして有用性が否定されました。

東京地判H14、2、14の事例では、非公開の公共土木工事単価表が、談合に利用される反社会的な情報であるとして、有用性が否定されています。

非公知性

営業秘密と認められるためには、秘密管理性、有用性に加えて非公知性が必要になります。
ここで、非公知とは、情報の内容を知るものが誰もいないという絶対的秘密ではなく、圧倒的多数者は情報の内容を知らないが、少数の者が情報の内容を知っているという相対的秘密のことです。

既に知られている情報と同種の情報であったり、入手が用意である情報と同一内容の情報であるような場合には、公知性がないと判断されます。

ただし、公知の情報であっても、その組み合わせが非公知である場合には非公知性が認められることがあります。

例えば、大阪地判H9、8、28では、公開された名簿から一定の嗜好を持つ者をランク付けした名簿の非公知性が認められました。

また、入手が可能であるが入手をするには多大な費用や労力を必要とする場合には、非公知性が肯定されることがあります。

大阪地判H15、2、27では、販売されている商品やリバースエンジニアリングを行うことで情報を入手することが可能であるが、それには多額の費用と労力が必要になる場合に非公知性が認められています。

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