知的財産
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美術・建築・図面の著作物

これらは著作物性の判断が非常に難しい

絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

形状や色彩により平面的あるいは立体的に表現された著作物のことです。
形状や色彩により平面的あるいは立体的に表現される著作物は、意匠法により保護される意匠との関係で非常に難しい問題があります。

簡単にいえば、本来意匠法で保護されるべきものを著作権法により保護することができるのか、言葉を換えれば意匠法と著作権法が重なり合って保護する対象が存在するのかという問題です。

この問題が生じるものとして、応用美術の問題があります。
そもそも、応用美術とは、絵画・彫刻などの技法を、実用品に用いたものの総称のことですが、これが著作物に該当するかが問題となるのです。

実用品のための産業デザインは、基本的に意匠権の保護対象と考えられています。
しかし、これが意匠権の保護以外に著作権としても保護されるか否かは別の問題であると考えられています。

著作権法は、「美術の著作物」に「美術工芸品」を含むと規定していますが、美術工芸品とはいかなるものを指すのか定義規定はなく、応用美術がこれに含まれるのかは解釈に委ねられています。

応用美術の問題は、応用美術一般の問題としては判断ができない問題であり、個別具体的に著作物性が認められるのか否かを判断する他ありません。

この問題に関しては多くの裁判例が存在しますが、近時の裁判例では、著作物として一般的に求められる創作性よりも高度な創作性が認められる場合に保護する傾向にあるといえます。

近時の判例では、大阪高裁平成17年7月28日「チョコエッグ事件」判決が非常に参考になりますので、一度確認されるべきと思います。
この他にも、活字書体であるタイプフェイスに著作物性が認められるかが問題となっています。
最高裁平成12年9月7日判決では、タイプフェイスを保護することは文字の独占を認めるに等しいという理由で著作物に含まれないと判断されています。

ただ、タイプフェイスは、多大な労力と費用を費やして開発されること、現に多額の対価を伴う取引の対象とされていることから、何らかの形で保護されるべきであると考えています。
現在、意匠法による保護が検討されていますが、未だ実現されていません。今後の立法動向に注意が必要なところです。

応用美術を検討する際には、意匠法との関係についても考慮する必要があるのですが、多くの裁判例では意匠法による保護の可能性により著作物から除外するという考え方はとられていません。

ただし、応用美術の著作物性について、裁判例等では当該対象が本来の用法とは別に「独立の鑑賞の対象たりうるか」という基準で判断しており、これが認められる場合にのみ著作物性を構成しています。

これについては、著作物性の要件である「創作性」のレベルを応用美術の分野については高いものを要求しているのか、あるいは独立の要件を貸しているのかという議論があるところですが、実務的にいていずれの立場でもかわりはありません。

例えば、タイプフェイスの場合に、この要件を求めてしまうと、もはや掛け軸の域に入っており、タイプフェイスとしての効用はないと思います。

応用美術は、あらゆる実用品で問題となっており、上記以外にも量産品の人形、佐賀錦袋帯、木目印刷壁紙、仏壇等も裁判例で問題となっており、いずれも「独立の鑑賞の対象たりうるか」という点で著作物性の有無の判断がなされています。

この他にも、アニメキャラクター等も問題となっているところです。

建築の著作物

著作物として認められるのは、全ての建築物ではなく、芸術的に価値のある建築物に限定されます。

福島地裁平成3年4月9日「シノブ設計事件」判決では以下のとおりと判示しています。
「『建築の著作物』とは(現に存在する建築物又は)設計図に表現されている観念的な建築自体をいうのであり、そしてそれは単に建築物であるばかりでなく、いわゆる建築系術と見られるものでなければならない。ここで「建築系術」と言えるか否かを判断するに当たっては、使い勝手の良さ等の実用性、機能性などではなく、もっぱら、その文化的精神性の表現としての建築物の外観を中心に検討すべきである。」

この判決から明らかなように、多大な労力や費用を投じて実用性の面で工夫を凝らしたとしても、それのみで建築の著作物とは認められません。あくまで、文化的な創意が表現されているか否かがポイントになるのです。

著作権法においては、建築の図面に従って建築物を完成することは複製とされています。
先の裁判例の考え方に従えば、当然のことを規定したに過ぎないものになりますが、我々の通常の感覚とは少し離れているところがありますので、注意が必要です。

なお、建築の著作物については、次の図面の著作物との関係で非常に難しい問題がありますが詳細については稿を改めて行いたいと思います。

地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物

平面的な地図、設計図、図表等、及び、立体的な地球儀や人体模型等で学術的な性格を有するものがこれにあたります。
富山地裁昭和53年9月22日「富山市・高岡市住宅地図事件」判決では、以下のとおり判示されています。

「一般に、地図は、地球上の現象を所定の記号によって、客観的に表現するものにすぎないものであって、個性的表現の余地が少なく、著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例ではあるが、各種素材の取捨選択、配列及びその表示方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たすものであるから、なおそこに創作性の表出があるものということができる。そして、右素材の選択、配列及び表現方法を総合したところに、地図の著作物性を認めることができる。」

この裁判例を基準とする限り、客観的に存在するものをそのまま紙面に表しただけでは著作物には該当せず、例えば、グルメマップや車を運転する際にわかりやすい作成の方法が採れている等の工夫が必要なのです。

また、図面についても、東京地裁平成9年4月25日判決等を参考にする限り、通常の技能を備えるものであれば誰でも作成しうるような図面については著作物性が否定される傾向にあります。

なお、建築図面の場合と同様に、機械図面にしたがって機械を組立て場合、機械図面の複製権を侵害したことになるのかという問題あります。この点、建築図面と建築物との関係を著作権法が認めた例外と考えるのか、それとも確認的に規定したものと考えるのかによって結論が異なると思います。

あくまで私見に止まるものですが、私は、建築図面と建築物との関係は、著作権法が定める例外であると考えています。
ですから、機械図面に従って機械を組立てた場合には機械図面の複製権侵害にはならないものと考えています。この問題につきましても、稿を改めて詳細な説明を行いたいと考えています。

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