知的財産
知的財産

独占的利用の範囲

育成者権は、植物体の支配

育成者権は、登録を受けた重要な形質に係る特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合を独占的に支配することができます。

育成者権は、登録品種と特性により明確に区別されない品種についても業として利用する権利について独占的に支配することができます。ここで、「登録品種と特性により明確に区別されない品種」とは、登録品種と特性の差はあるものの、保護要件としての区別性が認められる程度の差がないものをいいます。
そして、「区別性が認められる程度の差がない」とは、特性差が各形質ごとに設定される階級値(特性を階級別に分類した数値)の範囲内にとどまる場合をいいます。

独占的利用

品種を独占的に支配できるということは、当該品種を業として独占的に利用できることを指します。
特許権においては実施、商標法においては使用と表現されますが、種苗法においては利用と表現されます。

そして、種苗法において利用とは次の3つをいいます。

  • その品種の種苗を生産し、調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為
  • その品種の種苗を用いることにより得られる収穫物を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為(育成者権者又は専用利用権者が前号に掲げる行為について権利を行使する適当な機会がなかった場合に限る。)
  • その品種の加工品を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為(育成者権者又は専用利用権者が前二号に掲げる行為について権利を行使する適当な機会がなかった場合に限る。)

以上のように、利用には、種苗(植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるもの)の生産等、種苗を用いることにより得られる収穫物の生産等、品種の加工品を生産等に大別されるのです。

育成者権侵害とは、登録品種及び登録品種と特性により明確に区別されない品種について、育成者権者の許諾を得ずに利用することということができます。

なお、ここで注意が必要なのはきのこ類です。
きのこ類は、薬用物質を抽出するために培養されることがあります。
そして、施行令1条では、きのこ類については子実体の生産のために栽培されるものに限り農林水産植物とすることとされています。ですから、きのこ類に関しては、薬用物質を抽出しようとする者に対して菌種を販売する行為については育成者権を侵害することになりません。

従属品種への拡張

既存の品種を育種素材として新たな品種を育成した場合、原品種と同様の内容の保護が与えられ、原種品の育成者の権利が及ばないのが原則です。
ところが、バイオテクノロジーの発展により、原品種の特性をほとんど利用し、その一部だけを変化させた品種の育成が容易になっています。

このような一部だけを変化させた品種に対して、原品種の育成者権が及ばないとすると、従属品種の育成者は容易に原品種の育成者の労力にただ乗りできることになり、原品種の育成者に対する保護が十分とはいえません。
そこで、従属品種については、品種登録を認めつつも、それには原品種の育成者の権利が及ぶとされました。

これにより、従属品種の育成者に登録の途を認めつつも、原品種の育成者の権利を保護するというバランスをとっているのです。

従属品種の登録にあたり、原品種との関係で「特性により当該登録品種と明確に区別できる品種である」ことが必要であることは当然のことです。
なお、種苗法では、「従属品種等が品種登録された場合」と規定されていますが、従属品種等が登録された場合に限定されるという意味ではありません。

仮に従属品種等が品種登録されれば、その育成者が当該品種について有することになる育成者権と同様の内容の権利を親品種の育成者権者が有することを意味しているのです。
つまり、親品種の育成者権の効力は、従属品種等の登録の有無と関係なく、従属品種等の利用に及ぶことになるのです。

親品種自体が、変異体の選抜、戻し交雑、遺伝子組換え又は細胞融合のうちの非対称融合といった方法によって、他の品種に主として由来し、そのわずかな特性のみを変更した品種であって、かつ、当該他の品種と明確に区別できるもである場合には、従属品種や交雑品種に対して効力が及びません。

これは、原品種に主として由来する品種を育成して登録したとしても、育成に要する投資や労力は少なく済むため、従属品種にまで効力を及す必要がないと考えられたからです。
ですから、未登録の原品種が存在し、この従属品種について登録されている場合、かかる育成者権は、登録品種の従属品種に対して効力が及ばないことになります。

種苗法では、「同一の権利」とは規定せずに「同一の種類の権利」と規定している理由は、親品種の登録時期が従属品種等の登録時期より早く、親品種の育成者権が存続する限りにおいて、係る権利が従属品種等の利用に及ぶという言う意味で両者が完全に一致しないことによります。

ちなみに、育成者権の存続期間は、永年性植物で30年、その他の植物で25年と定められています。

原品種と従属品種との権利関係

従属品種の利用者は、原品種の育成者と従属品種等の育成者の両者から許諾を得る必要があります。

また、従属品種等の育成者が、登録された従属品種等を利用する場合には、親品種の育成者の許諾が必要になります。

反対に、親品種の育成者が、登録された従属品種等を利用する場合には、従属品種等の育成者の許諾が必要になるのです。

そして、原品種の育成者及び従属品種等の育成者がともに登録された従属品種を利用する場合には、原品種育成者と従属品種等の育成者の双方においてクロスライセンスを行う必要があります。

経済的価値の高い従属品種等を利用する場合には、原品種の育成者権者と従属品種の育成者権者のクロスライセンスが必要になりますが、かかる契約の際に利益分配の比率を決定する他ありません。
クロスライセンスにより折り合いがつかない場合は、経済的価値の高い従属品種等の利用が不可能になりますので、妥当なところで折り合いをつけることが期待できるのです。 

従属品種とは

従属品種とは、親となる登録品種に主として由来し、そのわずかな特性を変更して育成された品種をいいます。
例えば、登録品種の花色のみを変えた品種や耐病性のみを高めた稲等がこれにあたります。

従属品種は、登録品種に主として由来していることが必要になります。
ですから、両親の性質を半分ずつ受け継ぐ通常の交雑によっては従属品種を育成することはできません。

また、ある二つの品種の特性のほとんどが一致するような場合であっても、それぞれ別の品種を親としている場合や、当該二つの品種が親を同じくする兄弟関係にある場合は、いずれも一方の品種が他方の品種に由来しているとはいえないので、一方が他方の従属品種になることはありません。

従属品種等に該当するか否かは、当該品種の属する植物について専門的知見を有する研究者、当業者等による鑑定、DNA試験の結果等に基づき、当該品種の内容について、原品種に代替したり、競争が起こりうるかどうか、名称について原品種との従属関係が推測されるかどうか等の点を考慮して総合的に判断されます。

ここで、特性の経済的価値の大小は、従属品種に該当するか否かの判断に影響を及ぼしません。

従属品種の育成方法

従属品種の育成方法については、種苗法において変異体の選抜、戻し交雑、遺伝子の組換え、非対称性細胞融合が定められています。

変異体の選抜

変異体の選抜とは、自然的、人為的に生じた変異体を選抜する方法をいいます。

戻し交雑

戻し交雑とは、交雑に用いた一方の親を数代に渡って繰り返し交雑し、選抜重ねることにより、導入しようとする特定の特性以外のほとんどを反復親の特性と同じものに近づけていく方法をいいます。

遺伝子組換え

遺伝子組換えとは、ある植物に別の遺伝子を導入し、形質を転換させた植物を得る方法をいいます。

非対称性細胞融合

非対称性細胞融合とは、一方又は双方の細胞を放射線等で処理し、遺伝的に不完全な状態にしえt細胞融合を行い、両方の親の性質を不均等に伝える融合方法をいいます。

交雑品種

育成者権は、繁殖のために登録品種を常に交雑させる必要のある品種に対しても及びます。

交雑品種に対してその親となる品種の育成者権の効力が及ぶ理由は、交雑品種の親品種を育成するにあたっては、親品種の育成者が相当の期間を費やして資金、労力等の投資を行っていること、親品種が存続し続けなければ交雑品種は存続し得ないこと等から親品種が登録品種である場合、交雑品種にも育成者権の効力を及ぼすのが公平であると考えられたかれです。

繁殖のために登録品種を常に交雑させる必要のある品種とは、繁殖のために登録品種の使用が繰り返し必要な品種のことをいいます。交雑には、単交雑(A×B)によって得られる品種、雑交雑(A×B)×(C×D)、さらに三系交雑((A×B)×C)が含まれます。

なお、交雑とは、遺伝子型が同一のものの間の交配、遺伝子型の異なるものの間の交配のいずれもを含み、雌雄の配偶により子を生ずることをいいます。

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