知的財産
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意匠登録していない商品デザインの保護

商品のデザインを意匠登録している場合には,意匠権に基づいて製造や販売行為を差止める,あるいは損害賠償を求めていくということになります。

それでは,商品デザインを予め意匠登録していない場合には,デザインのフリーライドを見過ごさなければならないのでしょうか。

意匠登録を行っていない場合には,不正競争防止法によりデザインのフリーライドを阻止することができないか検討する必要があります。

cont_img_67.jpg不正競争防止法による対応で,まず検討しなければならないのが商品形態を模倣した商品の販売行為などに関する不正競争行為です。

不正競争防止法では,「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入する行為」が不正競争行為であるとして差止め,損害賠償の対象になると規定されています。

なお,「商品の形態」とは,「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と規定されています。意匠との決定的な違いは,「視覚を起こさせる美感」という法的な評価が含まれない,まさしく商品の形状などであるという点です。

ところで,商品の形態は,当該商品の機能を確保するために不可欠な形態については除かれると規定されています。

これは,機能を確保するために不可欠な形態を保護するということは結果としてその機能(技術)を保護することになってしまいます。

技術を保護する法律は特許法であり,特許法により保護される技術は,新規でありかつ進歩性を有するものと定められています。

仮に,機能を確保するために不可欠な形態も不正競争防止法により保護するということになると,特許法では保護されない技術が不正競争防止法により保護されるということになってしまいます。

意匠登録されていない商品のデザインが不正競争防止法により保護されるというのであれば,特許法により保護されない技術を不正競争防止法によって保護してもよいのではないかという議論が出てくるかもしれません。

しかし,技術については,デザインと並行的に考えて同様の発想を採用するわけにはいきません。

新たなデザインは,先行するデザインを参考に創作されることがあっても,先行するデザインの積重ねにより創作されるわけではありません。

他方,新たな技術というものは,先行する技術ベースに新たな技術が創作されるという側面があります。

そして,特許法は,このような技術開発の性質を前提として,新たな技術のうち進歩性のあるもの法的に保護し,それ以外の新たな技術については自由に使用することができる技術として万人に提供し,新たな技術開発の基礎として提供しているという機能を有しています。

ところが,不正競争防止法により,特許法によって保護されない技術を保護するということになると,上記した特許法の重要な機能を損なってしまうことになります。

ですから,不正競争防止法においては,機能を確保するために不可欠な形態については商品形態から除き,仮に,そのような形態によって表現されている技術が特許法によって保護されるものであるならば,特許登録を行って保護を図るべきであるという姿勢をとっているのです。

cont_img_68.jpg「模倣する」とは,「他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。」と規定されています。意匠との違いは,意匠権の場合には偶然同一の意匠,あるいは類似する意匠を実施した場合であっても差止めなどの対象になりますが,不正競争防止法の商品形態の模倣では,先行する商品形態に依拠(その商品を見て実質的に同一の商品を製造して販売などする)必要があるという点です。

ところで,先行する商品に依拠したのかどうかということは,厳密にいえば本人しか分からないことですが,宣伝・広告などにより先行する商品が有名である,模倣したものが先行する商品に接触する機会があったという間接的な状況から依拠したことを証明していくことになります。

不正競争防止法の商品形態は,意匠権のように新規性や創作性非容易性という要件が求められていません。

したがって,不正競争防止法においては,意匠権の登録要件が備わっていない商品の形態であっても保護されることになります。

しかし,これは,商品形態に一切新たな形態といえる部位がなく,その部位において何らの創作も行われていなくてもよいということにはなりません。

そもそも,不正競争防止法が先行する商品形態を模倣した商品を販売する行為などを不正競争行為と定めたかというと,先行する者に投下資本の回収の機会を提供するためです。

新たな商品形態を開発するためには,費用,時間,労力を費やす必要があります。そして,商品によっては,投下する費用,時間,労力が莫大なものとなることもあります。

このようにして開発された商品の形態を自由に模倣することができるならば,新たな商品形態を開発しようとするものがいなくなります。

そこで,不正競争防止法では,販売開始から3年間という限られた期間においては,先行する商品形態を模倣した商品を販売する行為などを不正競争行為として差止め,損害賠償の対象としたのです。

この不正競争防止法の趣旨を前提とする投下資本の回収の必要がない商品,つまり費用,時間,労力を費やして新たな形態を開発したと評価することができない商品の形態を模倣する行為は不正競争行為にはなりません。

そこで,裁判所では,問題となる商品形態に費用,時間,労力を費やして新たな部分が存在するのかということを確認します。

そして,以前の商品形態には存在しない新たな部分が存在するということは,そこには開発者の創意工夫が存在するものです。

この創意工夫というものは,意匠法でいうところの創作非容易性という程度ものは要求されていませんが,何らかの創意工夫というものがあるはずです。

ですから,結果的に不正競争防止法の商品形態についても,以前の商品には存在しない新たらしく,何らかの創意工夫が施された部分が必要になってくるのです。

そして,以前の商品には存在しない新たらしく,何らかの創意工夫が施された部分を模倣した場合に,はじめて商品形態の模倣ということになるのです。

先行する商品形態を模倣した商品を販売する行為などが不正競争行為の対象となるという知識を持っておられる方は少なくないのですが,以前の商品には存在しない新たらしく,何らかの創意工夫が施された部分が必要になってくるということについてまで理解されておられる方は少ないように思います。

不正競争防止法による商品形態模倣について問題にされる場合には,このことを理解した上で検討する必要がありますので注意してください。

ところで,先行する商品形態に実質的に同一な形態の商品を販売などすると不正競争行為になるのであり,完全同一である必要はありません。

その意味で,実質的同一というのは,意匠権と同様に幅のある概念です。

では,実質的に同一であるか否かという判断は,どのようにして行うのでしょうか。

基本的には意匠権の場合と同様に,比較対象となる商品形態の分説(各部位ごとに文章による説明)を行います。

そして,先行する商品形態の以前の商品形態には存在しない部分を抽出し,当該部分と模倣した商品の該当部分との比較を行い,実質的に同一と言えるか否かを判断します。

商品形態の比較は,意匠と同様に目につきやすい部分については実質的同一性の判断に大きな影響を及ぼしますが,反対に目につきやすい部分については小さな影響を及ぼすだけです。

他方,意匠と異なり,最終的に商品形態全体の比較を行って総合的に判断するということはありません。

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