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混同説・創作説の議論はナンセンス

混同説

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意匠の類否判断は,需要者の判断能力を基準に二つの意匠を混同するか否かによって判断するという考え方です。

この考え方の代表的な学説を前提に説明しますと,この考え方の根底にあるのは,意匠法の第一義的な目的は市場における不正な競争を防止するところにあるとし,それを回避するためには,物品(商品)を手にする需要者を基準として混同するか否かを判断すると説明されています。

しかし,意匠法では,意匠法の目的は,「意匠の保護及び利用を図ることにより,意匠の創作を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする」と規定されています。

つまり,意匠法の究極的な目的は「産業の発達に寄与すること」にあり,その手段として「意匠の保護及び利用を図る」という方法を採用すると明言しています。

意匠法の目的は,市場における不正な競争を防止するというものではありません。

確かに,類似する意匠を排除することにより,結果として市場における不正な競争を防止することができることは否定しませんが,それはあくまで意匠権を保護することによって生じる反射的効果であり,本来の目的ではありません。

そもそも,日本には,意匠法とは別に不正競争防止法が存在し,市場における不正な競争を防止するという目的は,不正競争防止法によって果たされるべきものであるため,条文に反してまで,意匠法にこのような目的を持たせる必要はないのです。

以上の理由を示すだけでも「混同説」という考え方は採用することができないことが明白となります。

さらに,混同説の代表的な学説では,意匠の本質は「美」であると説明し,意匠の「美」には装飾的な美と機能的な美というものが存在すると説明されています。

ところで,平成18年の意匠法改正では,登録意匠の範囲という項目に,新たに「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」という規定が設けられました。

この規程は,登録された意匠権の範囲に関する規定ですが,同一の法律において特に断りがない限り同一の概念は同一の意味として理解するということを前提にする限り,公然知られた意匠や刊行物等に記載された意匠と類似するか否かの判断においても適用されるものと考えるべきです。

この規程を前提とする限り,意匠の類否判断は,「需要者」の判断能力を基準とし,判断基準としては「視覚を通じて起こさせる美感」ということになります。

意匠法では,混同するか否かで判断するのではなく「視覚を通じて起こさせる美感」に基づいて判断しなければならないと規定されているため,混同説を採用するということになると,この規定にも反することになります。

この意味においても混同説は採用することができないのです。

また,混同説の理論的破綻は,意匠の本質は「美」であると説明しておきながら,権利の本質である「美」が意匠権の権利の範囲を決定する類否判断において全く考慮されないという点です。

確かに,混同するか否かという基準で意匠の類否判断を行うと比較的判断が容易であり,ある程度客観的な検証も可能です。

このような理由から,多くの裁判例において混同説という考え方が採用していた理由も理解できなくはないのですが,現在においてこのような方法で意匠の類否判断を行いますと明らかに意匠法違反となります。

創作説

cont_img_22.jpg創作説と一言で表現しても,その内容は様々であり一括りに「創作説」と表現すること自体が問題であると思えないわけではありません。

ここでは創作説の代表的な考え方とその問題点について説明します。

意匠の本質は「美」であるとの前提で,意匠法上の「美」と,著作権法上の「美」は同一のものであり,意匠法上の「美」は美を表現される対象が物品(商品)に限定されているが,著作権法上の「美」は美を表現されている対象が限定されていないという点で異なるに過ぎないとし,意匠法を著作権法の特別法であるという考え方をします。

そして,意匠法が工業所有権法の一つとして産業上利用される意匠を保護するという法目的から,著作物のようにただ主観的なオリジナリティがあればよいというのではなく,新規性の要件が求められることになると説明します。

以上の考え方を前提に,意匠の類否判断は,創作者の立場にたって,登録意匠の創作性の範囲か否かによって決定すると説明します。

しかし,意匠法は,著作権法とは異なり産業の発展に寄与する観点から物品(商品)という量産品に対して施される美感を保護する法律であるのに対し,著作権法は文化の発展を目的に思想又は感情を創作的表現したものを保護する法律であり,人による創作物を保護するという点では同一であるといえるものの,保護する創作の対象は明らかに異なると考えます。

そして,著作権法においても実用品に施された「美」というものが保護されますが,明文上では美術工芸品という一品制作ものに施された「美」のみが保護の対象とされ,判例においては量産品に施された「美」が保護の対象とされているものの,本来の使用目的とは別に独立に鑑賞の対象足りうるもののみに限定されています。

実用品に施される「美」が,著作権法によって保護されるためには,一品制作ものの美術工芸品と本来の使用目的とは別に独立に鑑賞の対象足りうる量産品に限定されるという理由は,著作権法によって保護される「美」と意匠法によって保護される「美」とが質的に異なるからであると考えざるを得ないと思います。

また,創作説は,意匠の類否判断において,創作者を基準に判断するという点で意匠法に反しますし,登録意匠の創作性の範囲か否かを基準に判断すると説明されたところで具体的に類否判断の基準を提示していることにはならないと思います。

以上の理由から,この創作説と言われるものは採用することはできないと考えています。

なお,混同説を基礎に判断の主体を創作者とする修正混同説や,創作説を基礎に判断の主体を需要者とする修正創作説など,様々な考え方はありますが,いずれの考え方も,前記した混同説や創作説を基礎する限り,これらの説を採用することはできないと考えています。

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