知的財産
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著作権法による保護

著作権は、「支分権の束」と言われるように、著作物の利用態様に応じて複数の支分権によって構成されています。

著作権の支分権には、①複製権、②上演権・演奏権・上映権・公衆送信権・伝達権、③口述権・展示権、④頒布権・譲渡権・貸与権、⑤翻訳権・翻案権等、⑥二次的著作物に関する許諾権によって構成されています。

キャラクターがなんらかの著作物にあたる場合、上記したいずれかの著作権によって保護されることになります。
なお、キャラクター使用態様やその性格から、②上演権・演奏権、③口述権によって保護されることはありません。

そもそも、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(法2条1項1号)であり、著作権法は、言語の著作物(法10条1項1号)、絵画の著作物(同4号)、映画の著作物(同7号)、写真の著作物(同8号)等を例示列挙しています。

そして、キャラクターがこの著作物にあたるのかについて検討する必要があるのですか、既に説明したように、キャラクターはその使用方法が様々です。キャラクターが著作物にあたるか否かは、キャラクターの使用方法ごとに検討する必要があるのです。

コミック

言語の著作物と絵画の著作物の両面を有する著作物といえます。

商品に用いられたキャラクターの容姿

商品にプリントされたキャラクターは「絵」です。
このことから、このようなキャラクターは絵画の著作物といえます。なお、会社のマークとして使用されているキャラクターについても、商標登録していれば商標となり、登録していなくとも出所表示となり、絵画の著作物という側面もあります。

アニメーション

アニメーションは、映画の著作物として保護されることになります。

著作権法2条3項は、映画の著作物には、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」も含むと規定されています。
ですから、ビデオテープやビデオディスク、コンピュータのハードデスクに保存されたアニメーションも映画の著作物として保護されることになります。

ビデオゲーム

ビデオゲームについても、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」たものとして「映画の著作物と言えるのでしょうか。
いわゆるロールプレイングゲームでは、ストーリーがあり映画の著作物にあたるようにも思えるのですが、他方でプレイヤーの意思によりストーリー展開が異なるという点で、一般的な映画とは異なるようにも思えます。

この点、ビデオゲームが映画の著作物にあたるか否かについて、中古ゲームソフトの販売差止を求めた事件において問題となり、同時期に大阪地裁と東京地裁と正反対の判決が出されました。その後、大阪高裁、東京高裁において、映画の著作物であることについては一致したものの、権利行使が許されるかという点で、正反対の結論に至り、最高裁判決が下された経緯があります。

最高裁においても、ビデオゲームが映画の著作物にあたることは肯定しており、以下で引用します。

最高裁平成14年4月25日判決

「本件各ゲームソフトは、著作権法2条3項に規定する『映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物』であり、同法10条1項7号所定の「映画の著作物」に当たる。」。

キャラクター人形の保護

東京高裁平成13年5月30日「キューピー人形事件」判決では、キューピー人形を従来の天使、キューピットとは異なる独自の著作物であると判断しました。以下、判決を引用します。

「『かわいらしい幼児の天使の立像』自体、その表現が多種多様であり得るのであって、そのような立像に新たな創作性が付与されたものであれば、旧著作権法及び現行著作権法上の著作物というべきである。上記のとおり、キューピーイラストが従来の作品における子供、天使、キューピッド等の表現として不可避又は一般的な表現にとどまらず、むしろ、新たな空想上の存在を感得させる表現上の創作性を有する以上、これを立体的に表現した本件著作物もまた、その創作性を認めることができる。」

しかし、キャラクターが立体的な人形として販売される場合にはキャラクターの絵に忠実に作成されます。
このことから、「キューピー人形」と同様の基準で、キャラクターの保護を図ることはできません。
以下では、キャラクター人形を保護した裁判例を概観したいと思います。

複製物として保護した例

東京地裁昭和61年9月19日「キン肉マン事件」判決

「被告人形は、いずれも・・・本件映画のキャラクターの姿態をそのまま三次元的に作出し、有形的に再製したものである。・・・被告人形は本件著作権侵害行為を組成する物である。」

キャラクター人形を二次的著作物として保護した例

東京地裁昭和52年3月30日「たいやきくん」事件判決

「画家としての感覚と技術とを駆使して、独自に『たいやき』の擬人化現象として本件原画を製作したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、本件原画は、著作権により保護される著作物であ」る。・・・「本件縫いぐるみは、縫いぐるみ人形であって、数種の色彩、柄の布地を裁断して縫製し、その内部に綿類等の芯を詰め入れ、魚の顔を、体を形成しているが、その形体、表情は、本件原画のそれとほとんど同一であることが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。右認定によれば、本件縫いぐるみは、本件原画に依拠して、これを変形して製造されたものと認めるのが相当である。」

京都地裁平成9年7月17日「ファイブスター物語事件」判決

「漫画キャラクターを立体化した商品は、実在する物を忠実に再現する一般のスケールモデルとは異なり、その立体化の過程に制作者の思想・感情の表現が看られるのであって、当該キャラクターが描かれた漫画又は当該キャラクターという美術著作物の変形として、二次的著作物としての著作物性を有すると認めるのが相当である。」

以上の2件については、キャラクター人形を二次的著作物と解していますが、キャラクター人形を二次的著作物を解釈した場合、キャラクターの絵とは異なる独自の著作物性が認められなければなりません。

ところで、以下で紹介する2つの判決では、人形が著作物として保護されるには美術性が必要であると判示しています。

長崎地佐世保支部昭和48年2月7日「博多人形事件」決定

「著作権法の対象となる著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものでなければならないが、前記認定のとおり本件人形『赤とんぼ』は同一題名の童謡から受けるイメージを造形物として表現したものであつて、・・・その姿体、表情、着衣の絵柄、色彩から観察してこれに感情の創作的表現を認めることができ、美術工芸的価値としての美術性も備わっているものと考えられる。また美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。さらに、本件人形が一方で意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといつても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であって、両者の重量的存在を認め得ると解すべきであるから、意匠登録の可能性をもつて著作権法の保護の対象から除外すべき理由とすることもできない。従って、本件人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである。」

大阪高裁平成17年7月28日「チョコエッグ事件」判決

「美的創作物は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、制作者が当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的で制作し、かつ、一般的平均人が上記目的で制作されたものと受け取るもの(純粋美術)と、思想又は感情を創作的に表現したものであるけれども、制作者が当該作品を上記目的以外の目的で制作し、又は、一般的平均人が上記目的以外の目的で制作されたものと受け取るものに分類することができる。いわゆる応用美術とは、後者のうちで、制作者が当該作品を実用に供される物品に応用されることを目的(以下「実用目的」という。)として制作し、又は、一般的平均人が当該作品を実用目的で制作されたものと受け取るものをいう。・・・『美術の著作物』は、純粋美術に限定されないことは明らかである。しかし、著作権法2条2項により「美術の著作物」に該当することが明らかである一品制作の美術工芸品を除く、その他の応用美術が「美術の著作物」に該当するかどうかは、同法の条文上、必ずしも明らかではない。・・・、応用美術であっても、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っているため、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合は、『美術の著作物』として、著作権法による保護の対象となる場合があるものと解するのが相当である。・・・、本件模型原型は、応用美術に該当するものというのが相当である。」

「本件動物フィギュアは、市販の動物図鑑、鳥類図鑑等をもとに、動物の形状等を、可能な限り、実際の動物と同様に立体的に表現し、色彩も、実際の動物と同様の色、模様が付されたものであり、極めて精巧なものであって、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。・・・しかしながら、・・・制作に当たった造形師が独自の解釈、アレンジを加えたというような事情は見当たらない・・・。したがって、本件動物フィギュアには、制作者の個性が強く表出されているということはできず、その創作性は、さほど高くないといわざるを得ない。してみると、本件動物フィギュアに係る模型原型は、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず、著作物には該当しないと解される。」

「本件妖怪フィギュアは、本件動物フィギュアと異なり、空想上の妖怪を造形したものである。確かに、前記認定のとおり、本件妖怪フィギュアのなかには、石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものもある。しかし、平面的な絵画をもとに立体的な模型を制作する場合には、制作者は、絵画に描かれた妖怪の全体像を想像力を駆使して把握し、絵画に描かれていない部分についても、描かれた部分と食い違いや違和感が生じないように構成する必要があるから、その制作過程においては、制作者の想像力ないし感性が介在し、制作者の思想、感情が反映されるということができる。そして、本件妖怪フィギュアは、石燕の原画を忠実に立体化したものではなく、随所に制作者独自の解釈、アレンジが加えられていること、妖怪本体のほかに、制作者において独自に設定した背景ないし場面も含めて構成されていること・・・、色彩についても独特な彩色をしたものがあることを考慮すれば、本件妖怪フィギュアには、石燕の原画を立体化する制作過程において、制作者の個性が強く表出されているということができ、高度の創作性が認められる。また、本件妖怪フィギュアのうち、石燕の「画図百鬼夜行」を原画としないものについては、制作者において、空想上の妖怪を独自に造形したものであって、高度の創作性が認められることはいうまでもない。そして、前記認定のとおり、本件妖怪フィギュアは、極めて精巧なものであり、一部のフィギュア収集家の収集、鑑賞の対象となるにとどまらず、一般的な美的鑑賞の対象ともなるような、相当程度の美術性を備えているということができる。以上によれば、本件妖怪フィギュアに係る模型原型は、石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものと、そうでないもののいずれにおいても、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるものと認められるから、応用美術の著作物に該当するというのが相当である。」

「本件アリスフィギュアは、テニエルの挿絵を立体化したものである。本件アリスフィギュアについても、・・・極めて精巧なものであって、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。しかしながら、本件アリスフィギュアは、平面的に描かれたテニエルの挿絵をもとに立体的な模型を制作する過程において、制作者の思想、感情が反映されるものであるから、創作性がないわけではないが、前記認定のとおり、本件アリスフィギュアは、テニエルの挿絵を忠実に立体化したものであり、立体化に際して制作者独自の解釈、アレンジがされたとはいえないことや、色彩についても、通常テニエルの挿絵に彩色する場合になされるであろう、ごく一般的な彩色の域を出ていないことを考慮すれば、本件アリスフィギュアには、テニエルの原画を立体化する制作過程において、制作者の個性が強く表出されているとまではいえず、その創作性は、さほど高くないといわざるを得ない(・・・)。してみると、本件アリスフィギュアに係る模型原型は、極めて精巧なものであるけれども、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、いまだ純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず、応用美術の著作物には該当しないと解される。」

以上のように、人形が著作物と認められるためには、単なる「創作性」に加えて高い美術的創作が必要となるかという問題があります。 また、意匠法の保護の対象となりうるものを著作権法によって保護してよいのかという問題もあります。

意匠法との重複保護については、長崎地佐世保支部昭和48年2月7日「博多人形事件」決定時においては問題となっていましたが、その後の裁判例においては特に問題となっていませんので、上記決定以降、裁判所において重複保護が認められると理解してよいと思います。

他方、人形が著作物として保護されるためには、高い美術性が要求される点については、東京地裁昭和52年3月30日「たいやきくん」事件判決、京都地裁平成9年7月17日「ファイブスター物語事件」判決においては、特に求められていませんでしたが、大阪高裁平成17年7月28日「チョコエッグ事件」判決において求められるようになりました。

これは、応用美術が著作物として保護されるための要件として、古くから争いのある問題であり、裁判所では、以前から応用美術には単なる創作性とは質の異なる創作性を求める傾向にあり、上記大阪高裁判決はそのような裁判例の傾向を引継いでいると評価できます。

キャラクター人形は、コミックやテレビ番組で人気を得て、その登場人物を正確に人形にするから売れるのです。

コミックやテレビ番組の登場人物に似ているが、人形制作者独自の創作性が入った人形は、我々の感覚では、まがい物としてしか評価されず、多くの販売量は望めないと思います。

ところが、前記大阪高裁のアリス人形と同様の基準で判断しますと、キャラクター人形を二次的著作物として保護するのは困難です。

キャラクター人形が著作物でないとすれば、コミックやテレビ番組の登場人物等を人形にしたものは、絵画の著作物や映画の著作物の複製物となります。ですから、何らの権限なく第三者がキャラクター人形を制作した場合には複製権侵害ということになると思います。

なお、人形の著作物の基準については、今後も裁判例の積み重ねをまたなければならないところです。私個人の意見としては、人形の著作物性に大阪高裁が判示するような高い創作性は必要ないのではないかと考えています。

原作小説とキャラクターとの関係

最近、小説等のコミック化やアニメーション化が行われることがありますが、

この場合の登場人物は、コミックやアニメーションを製作する者によって、小説等から読み取れる登場人物の性格等に基づいてキャラクターの容姿等が決定されています。

そして、このキャラクターは、原作とは異なる独自の創作性が認められ、原作小説等とは別の著作物性が認められることについては争いがありません。

ただ、そのキャラクターが原作小説の二次的著作物であるのか否かが問題となります。

仮に、キャラクターが原作小説の二次的著作物ということになりますと、そのキャラクターは、原作小説の作者が自由に使用することができますし、キャラクターの創作者は、原作小説の作者の同意がなければ、自ら創作したキャラクターを使用することができないということになるのです。

この問題が争われたのが「キャンディキャンディ事件」です。以下では、東京地裁、東京高裁、最高裁のそれぞれの判決を引用します。

東京地裁平成12年12月26日判決

「本件連載漫画は、当初から原告が作成した原作原稿を・・・が漫画化するものとして『なかよし』編集部によって企画され、実際にも連載の各回ごとに原告が小説の形式で原作原稿を作成し、これを・・・が漫画化するという手順で制作が行われたものであり、本件連載漫画とこれに対応する右原作原稿の各内容を対比してみても、前記のとおり、本件連載漫画はおおむね原作原稿の記載内容に沿って具体的なストーリーが展開され、登場人物の吹き出しの台詞や思考・心情の記述もその多くが原作原稿中の記載に基づくものと認められる。また、出版物における著者の表示や二次的利用の際の権利関係の処理においても、原告は、終始、本件連載漫画につき原作者としての権利を有するものとして処遇され、被告Bもこれを容認してきたものである。これらの事情を総合すれば、本件連載漫画は、連載の各回ごとに、原告の創作に係る小説形式の原作原稿という言語の著作物・・・(に)表現された思想・感情の基本的部分を維持しつつ、表現の形式を言語から漫画に変えることによって、新たな著作物として成立したものといえるのであり、したがって、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作原稿という著作物を翻案することによって創作された二次的著作物に当たると認められる。」

東京高裁判決平成12年3月30日判決

「『二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。』と規定しており、この規定によれば、原著作物の著作権者は、結果として、二次的著作物の利用に関して、二次的著作物の著作者と同じ内容の権利を有することになることが明らかであり、他方、控訴人が、二次的著作物である本件連載漫画(本件連載漫画自体が被控訴人作成の物語原稿の二次的著作物であることは、原判決の認定するとおりであり、控訴人も、当審においてはこれを争っていない。)の著作者として、本件連載漫画の利用の一態様としての本件コマ絵の利用に関する権利を有することも明らかである以上、本件コマ絵につき、それがストーリーを表しているか否かにかかわりなく、被控訴人が控訴人と同一の権利を有することも、明らかというべきである。・・・二次的著作物は、その性質上、ある面からみれば、原著作物の創作性に依拠しそれを引き継ぐ要素(部分)と、二次的著作物の著作者の独自の創作性のみが発揮されている要素(部分)との双方を常に有するものであることは、当然のことというべきであるにもかかわらず、著作権法が上記のように上記両要素(部分)を区別することなく規定しているのは、一つには、上記両者を区別することが現実には困難又は不可能なことが多く、この区別を要求することになれば権利関係が著しく不安定にならざるを得ないこと、一つには、二次的著作物である以上、厳格にいえば、それを形成する要素(部分)で原著作物の創作性に依拠しないものはあり得ないとみることも可能であることから、両者を区別しないで、いずれも原著作物の創作性に依拠しているものとみなすことにしたものと考えるのが合理的であるからである。・・・、本件連載漫画が絵画のみならずストーリー展開、人物の台詞(せりふ)等が不可分一体となった一つの著作物であることは原判決が正当に認定判断しているとおりであり、また、本件表紙絵及び本件原画がいずれも本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものであることは、控訴人も認めるところである以上、仮に、控訴人主張のいきさつが認められるとしても、本件表紙絵及び本件原画が本件連載漫画を複製(あるいは翻案)したものと評価されなければならないことは当然であって、このことは、控訴人主張のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵をキャンディのキャラクター原画とみることができるとしても、それにより変わるところはないものというべきである。換言すれば、控訴人主張のいきさつが認められ、かつ、本件表紙絵及び本件原画の中に、控訴人主張のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵を複製(あるいは翻案)したものとする要素があるとしても、それらは、本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものである限り、本件連載漫画の複製(あるいは翻案)としての性質を失うことはあり得ないものというべきである。・・・、本件表紙絵及び本件原画が本件連載漫画を複製(あるいは翻案)したものではないというためには、それらが本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものではないという必要があるというべきである。」。

最高裁平成13年10月25日判決

「本件連載漫画は被上告人作成の原稿を原著作物とする二次的著作物であるということができるから、被上告人は、本件連載漫画について原著作者の権利を有するものというベきである。そして、二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し、原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者である上告人が有するものと同一の種類の権利を専有し、上告人の権利と被上告人の権利とが併存することになるのであるから、上告人の権利は上告人と被上告人の合意によらなければ行使することができないと解される。したがって、被上告人は、上告人が本件連載漫画の主人公キャンディを描いた本件原画を合意によることなく作成し、複製し、又は配布することの差止めを求めることができるというべきである。」

上記の最高裁判例により、原作小説等とそれを前提にしたキャラクターとは、原著作物と二次的著作物という関係にたつとの結論で決着がついたものと理解してよいと思います。原作小説をモデルにコミックやアニメーションを製作するのであれば、原作者とコミック・アニメーションの制作者との関係を契約により予め定めておく必要があると思います。

パロディ漫画

連載コミックは、一般的に、大手出版会社が発行する雑誌に連載され、読者受けが良いと単行本として発売されるようにな、さらには、テレビアニメ化されたり、映画化がされたりすることは、既に説明したとおりです。

ところが、近年、このような大規模な商業化を前提にせず、限定された読者を対象とした連載漫画の市場、いわゆるコミックマーケットが形成されています。

このようなコミックマーケットにおいては、独自の創作に基づいて作成された漫画も販売されているものの、人気のある漫画の登場人物を独自のストーリーに当て込んで作成された漫画も一定程度存在します。

また、人気のある漫画の登場人物は、単独の漫画からのみ選択されることもあれば、異なる著作者の異なる登場人物を好みのまま選択されていることもあります。
このようなコミックのことをパロディ漫画と呼ばれていますが、著作権法上いかなる問題があるか検討しておく必要があります。

著作者には著作者人格権が認められており、その権利の一つに、自らの著作物を無断で変更できないという権利があります。

それが、著作者の同一性保持権といいます。

人気のあるコミックの登場人物を利用して、「吹き出し」と呼ばれる台詞部分に変更が加えられている場合には、登場人物の台詞が変更されたとして同一性保持権を侵害したものと認めることができます。

しかし、事はそう単純ではありません。パロディ漫画は、単純に著名なコミックの「吹き出し」の台詞のみを変更して制作されるのではなく、人気のあるコミックの登場人物に独自の動きなどを加えて独自のストーリー展開を行っているものが主流です。

仮に、登場人物が統一的に有する容貌、姿態、性格等を総合した抽象的な存在を著作物として認めるのであれば、これを侵害していることは間違いありません。
ただし、同一性保持権は、創作した著作物を創作したとおりに利用する権利ですので、異なる著作者の異なる登場人物を好みのまま選択して独自のコミックを作成した場合には、もはや同一性保持権の埒外と言えなくないと思います。

この点については、具体的な事案ごとに慎重に検討する必要があると思います。

複製権・翻案権侵害

登場人物が統一的に有する容貌、姿態、性格等を総合した抽象的な存在が保護されない以上、パロディ漫画と原作漫画の登場人物の絵をそれぞれ比較して判断することになります。

ところが、パロディ漫画は、著名なコミックの登場人物に独自の動きなどを加えてストーリーを制作されているため、複製の範囲を超えてしまう可能性があります。その場合には、翻案権侵害にあたるか否かを検討する必要があります。

なお、複製権侵害であるか翻案権侵害であるかの相違は微妙な判断を要するところであり、学説においても区別をする基準については様々な説が展開されているところです。

この点、裁判所においては、著作物の複製とは、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を知覚させる足りるものを再製することをいうと解すべきである。」(最高裁昭和53年9月7日「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件」判決)と判示され、翻案権侵害とは、「著作物についてその翻案権の侵害があるとするためには、問題となっている作品が、右著作物と外面的表現形式すなわち文章、文体、用字、用語等を異にするものの、その内面的表現形式すなわち作品の筋の運び、ストーリーの展開、背景、環境の設定、人物の出し入れ、その人物の個性の持たせ方など、文章を構成する上での内容的な要素を同じくするものであり、かつ、右作品が、右著作物に依拠して制作されたものであることが必要である。」(名古屋地裁平成16年7月29日「春の波濤事件」判決)判示されています。

複製権侵害であるか、翻案権侵害であるかの区別については、上記した二つの判例の基準が一つの指標になると思います。

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