知的財産
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キャラクターが有する顧客吸引力の保護

様々な商品にキャラクターが使用されていると説明しましたが、それでは、なぜ様々な商品にキャラクターが使用されるのでしょうか。

その答えは、皆さんも経験上よく理解されているとおもうのですが、端的に「商品が売れるから」に他なりません。 無地のTシャツなら売れませんが、そこに人気があるキャラクターがプリントされると高くても売れるということは、我々が普段から経験することです。

では、なせ人気のあるキャラクターがプリントされたTシャツがうれるのでしょうか。
それは、そのキャラクターに顧客吸引力があるからなのです。

それでは、このキャラクターが持っている顧客吸引力というものを法的に保護することは可能なのでしょうか。

この点が問題となった事件がギャロップレーサー事件の一連の判決です。
これらの判決では、「一般人がキャラクターに対して抱く関心や好感、憧憬、崇敬等の感情が、当該キャラクターを示す名称、容姿等に波及し、ひいては当該キャラクターの名称、容姿等と関連づけられた商品に対する関心や所有願望として一般人を当該商品に向けて吸引する力」が何らかの法で保護されるのかが問題となりました。

まず、名古屋地裁平成12年1月19日判決は次のように判示し、これを肯定しました。

「固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した著名人の氏名、肖像を商品の宣伝、広告に利用し、あるいは商品そのものに付することにより、当該商品の販売促進に効果をもたらすことがあることは一般によく知られている。これは、著名人に対して大衆が抱く関心や好感、憧憬、崇敬等の感情が当該著名人を表示する氏名、肖像等に波及し、ひいては当該著名人の氏名、肖像等と関連づけられた商品に対する関心や所有願望として大衆を当該商品に向けて吸引する力を発揮してその販売促進に効果をもたらす結果であると理解できる。その結果、著名人の氏名、肖像等は、当該著名人を象徴する個人識別情報としてそれ自体が顧客吸引力を持つようになり、一個の独立した経済的利益ないし価値を具備することになる。そして、このような著名人の氏名、肖像等が持つこのような経済的な利益ないし価値は著名人自身の名声、社会的評価、知名度等から派生するものということができるから、著名人がこの経済的利益ないし価値を自己に帰属する固有の利益ないし権利と考え、他人の不当な使用を排除する排他的な支配権を主張することは正当な欲求であり、このような経済的利益ないし価値は、現行法上これを権利として認める規定は存しないものの、財産的な利益ないし権利として保護されるべきである。このように著名人がその氏名、肖像その他の顧客吸引力のある個人識別情報の有する経済的利益ないし価値(パブリシティの価値)を排他的に支配する権利がいわゆる「パブリシティ権」と称されるものである(東京高裁平成3年9月26日判決・判例時報1400号2頁、同平成11年2月24日判決平成10年ネ第673号参照)。そして、パブリシティ権は、排他的にパブリシティの価値を支配する権利であるから、無断で氏名、肖像その他顧客吸引力のある個人識別情報を利用するなどパブリシティの価値を侵害する行為がなされた場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権が認められるのみならず、当該侵害行為の差止めや侵害物の廃棄等を求めることができるとされている。・・・、大衆が、著名人に対すると同様に、競走馬などの動物を含む特定の物に対し、関心や好感、憧憬等の感情を抱き、右感情が特定の物の名称等と関連づけられた商品に対する関心や所有願望として、大衆を当該商品に向けて吸引する力を発揮してその販売促進に効果をもたらすような場合においては、当該物の名称等そのものが顧客吸引力を有し、経済的利益ないし価値(パブリシティの価値)を有するものと観念されるに至ることもあると思われる。・・・、重賞レースに優勝するなど、競争に強い馬の知名度、好感度は増し、プロスポーツ選手同様にファンからスター扱いされていることは、公知の事実である。このような競走馬の人気を商業的に利用しようとした場合には、著名人と同様な顧客吸引力を発揮するものと思われる。このように、『著名人』でない『物』の名称等についても、パブリシティの価値が認められる場合があり、およそ『物』についてパブリシティ権を認める余地がないということはできない。また、著名人について認められるパブリシティ権は、プライバシー権や肖像権といった人格権とは別個独立の経済的価値と解されているから、必ずしも、パブリシティの価値を有するものを人格権を有する『著名人』に限定する理由はないものといわなければならない。このような物の名称等がもつパブリシティの価値は、その物の名声、社会的評価、知名度等から派生するものということができるから、その物の所有者(後述のとおり、物が消滅したときは所有していた者が権利者になる。)に帰属する財産的な利益ないし権利として、保護すべきである。・・・著名人に関するパブリシティ権は、人格権として認められるプライバシー権や肖像権とは別個独立の経済的価値として把握されるものの、パブリシティの価値が著名人自身の名声、社会的評価、知名度等から派生することから、著名人がこれを自己に帰属する固有の利益ないし権利と考えるのは自然であるとして、その発生の時から人格権の主体である当該著名人に帰属するものとされており、人格権の帰属と表裏一体の密接な関係を有するものとして認められる。これに対し、物については、人格権を観念することはできず、物に対する所有権との関係で考慮する必要がある。・・・物に関する名称等にパブリシティ権が成立するための要件としては、著名人にパブリシティ権が成立する要件と同様となるものと解される。つまり、大衆が、特定の物に対し、関心や好感、憧憬、崇敬等の感情を抱き、右感情が特定の物の名称等と関連づけられた商品に対する関心や所有願望として、大衆を当該商品に向けて吸引する力を発揮してその販売促進に効果をもたらすような場合であって、物の名称等が固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得して、それ自体が顧客吸引力を持つと客観的に認められることが必要であるものと解される。そして、物がそのような顧客吸引力を有すると認められる場合、これを経済的に利用できる者は、その物の所有者であるから、パブリシティ権は、その物の所有者に帰属するものである。物に関するパブリシティ権は、その物が顧客吸引力を有している限り、日々発生するから、物の譲渡などにより、所有権が移転した場合には、特段の合意がない限り、移転の日以前の分は、以前の所有者に残るが、以後のパブリシティ権は新所有者に移転する。物に関するパブリシティ権は、対象が消滅した場合であっても、パブリシティ価値が存続している限り、対象が消滅した時点における所有者が、パブリシティ権を主張できるものと解する。物に関するパブリシティ権が侵害された場合に権利者がとり得る手段としては、不法行為に基づく損害賠償を請求することは認められるものの、差止めは許されないものと解する。たしかに、パブリシティ権を排他的支配権と理解すれば、これを侵害する者に対し、その排除を求めることができるとすることが権利の実効性を果たすために必要である。物権に基づく妨害排除請求権や知的所有権や人格権に基づく差止請求権が認められる理由の一つもこのようなものである。しかしながら、差止めが認められことにより侵害される利益も多大なものになるおそれがあり、不正競争防止法による差止請求権の付与など、法律上の規定なくしては、これを認めることはできず、物権や人格権、知的所有権と同様に解するためには、それと同様の社会的必要性・許容性が求められる。ましてや、物権法定主義(民法175条)により新たな物権の創設は原則として禁止されているのであり、所有権と密接に関わる権利である物についてのパブリシティ権は、慎重に考える必要がある。結局、物のパブリシティ権が経済的価値を取得する権利にすぎないことを考慮すると、現段階においては、物についてのパブリシティ権に基づく差止めを認めることはできないものと解する。ただし、物についてのパブリシティ権であっても、不法行為に基づく損害賠償の対象としての権利ないし法律上保護すべき利益には該当するものと認められるから、損害賠償は認められるものと解する。」

また、名古屋高裁平成13年3月8日判決も地裁同様に物のパブリシティ権を認めています。
ただし、名古屋高裁においては、重賞優勝馬に限り、パブリシティ権を認めています。

「商標法によって商標として登録した馬名が保護されるのは、登録した商標を自己の業務にかかる商品又は役務について使用する場合に限られるのであって、本件のように競走馬の馬主が競走馬の有する名声、社会的評価、知名度等から生じる顧客吸引力という経済的利益ないし価値を支配し、これを利用しようとするときには、必ずしも有効とはいえないことが明らかである。そして、芸能人、プロ野球の選手、著名なプロスポーツ選手について、その氏名、肖像の有する顧客吸引力という経済的利益ないし価値を支配するものとしてパブリシティ権が承認されており、このような著名人ではないけれども、中央競馬又は地方競馬に出走する競走馬についても、いわゆる重賞レースなどにおいて優勝する競争に強い競走馬そのものに対する名声、社会的評価、知名度等が生じており、それが著名人におけるのと同様の顧客吸引力を有していることは公知の実であり、・・・、現にこのような競走馬の馬主が競走馬の馬名、肖像等をゲームソフトで使用するについてゲームソフト製作販売会社との間で一定額の使用許諾料の支払を受ける旨の契約を締結したりして、右馬名のもつ顧客吸引力から経済的利益等を得ようとし、又は得ている状況にあることが認められる。そうすると、現在、著名人に限らず競走馬等の物のパブリシティ権を一定の要件のもとに承認し、これを保護するのを相当とするような社会状況が生まれているというべきである。以上のとおり、馬主が有する競走馬の有する名声、社会的評価、知名度等から生じる顧客吸引力という経済的利益ないし価値を保護するには、商標法による保護のみでは十分とはいえず、一定の要件のもとに物のパブリシティ権を承認してこれを保護する必要があると解するのが相当である」。

これらの判決を前提とする限り、キャラクターが持っている顧客吸引力も保護されるものと考えられていました。
しかし、以下で紹介する最高裁は、物が有する顧客吸引力の法的保護を明確に否定しました。この最高裁判決により、現在の裁判所では、キャラクターが持っている顧客吸引力の保護は受けることができないと理解してよいと思います。

最高裁平成16年2月13日判決

「一審原告らは、本件各競走馬を所有し、又は所有していた者であるが、競走馬等の物の所有権は、その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり、その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではないから、第三者が、競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権能を侵すことなく、競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても、その利用行為は、競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである(最高裁昭和58年(オ)第171号同59年1月20日第二小法廷判決・民集38巻1号1頁参照)。本件においては、前記事実関係によれば、1審被告は、本件各ゲームソフトを製作、販売したにとどまり、本件各競走馬の有体物としての面に対する1審原告らの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから、1審被告の上記製作、販売行為は、1審原告らの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。現行法上、物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っているが、その反面として、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている。上記各法律の趣旨、目的にかんがみると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである。したがって、本件において、差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。なお、原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても、それらの契約締結は、紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど、様々な目的で行われることがあり得るのであり、上記のような契約締結の実例があることを理由として、競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。」

以上のように、抽象的な存在のキャラクター、キャラクターが有する顧客吸引力が保護されないことは、最高裁判例により、確定したものと考えてよいと思います。
ですから、現時点においては、キャラクターを保護するためには、具体的なキャラクターの使用態様ごとに、それぞれの事案に応じて、意匠法、商標法、不正競争防止法、著作権法等の法律を用いて保護を図っていく他ないのです。

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