知的財産
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抽象的な存在としてのキャラクターの保護

キャラクターは様々な場面で使用されることになります。
また、キャラクターは、様々な表情や姿をもった動きのある存在です。

いわば、キャラクターは、コミック、映画、ゲーム等に登場する登場人物が統一的に有する容貌、姿態、性格等を総合した抽象的存在であると言えるのです。

このような抽象的な存在であるキャラクターそのものを保護することはできないのでしょうか。
これを肯定した裁判例が過去に存在しました。

東京地方裁判所昭和51年5月26日「サザエさん事件」判決では、次のとおり判示されています。

「漫画『サザエさん』には、その主役としてサザエさん、その弟のカツオ、妹のワカメ、夫のマスオ、父の波平、母のお舟等が登場し、サザエさんは平凡なサラリーマンの妻として、家事、育児あるいは近所付合いなどにおいて明るい性格を展開するものとして描かれており、またその他の登場人物にしてもその役割、容ぼう、姿態などからして各登場人物自体の性格が一貫した恒久的なものとして表現されており、更に特定の日の新聞に掲載された特定の四齣の漫画『サザエさん』はそれ自体として著作権を発生せしめる著作物とみられ得る。そして、右特定の四齣の漫画には、特定の話題ないし筋ともいうべきものが存するが、たとえ原告自身が作成した漫画であって、その話題ないし筋が特定の四齣の漫画『サザエさん』の話題ないし筋と同一であっても、そこに登場する人物の容ぼう、姿態等からしてその人物がサザエ、カツオ、ワカメ等であると認められなければ、その漫画は漫画『サザエさん』であるとは言えないし、逆に話題ないし筋がどのようなものであっても、そこに登場する人物の容ぼう、姿態等からしてその人物がサザエ、カツオ、ワカメ等であると認められれば、その漫画は、原告自身が作成したものであればもちろん漫画『サザエさん』であり、また他人が作成した漫画であってもそこに登場する人物の容ぼう、姿態等からしてその人物が原告の作成する漫画『サザエさん』に登場するサザエ、カツオ、ワカメ等と同一又は類似する人物として描かれていれば、その漫画は漫画『サザエさん』と誤認される場合があるであろうと解される。更にまた、右のように長期間にわたって連載される漫画の登場人物は、話題ないし筋の単なる説明者というより、むしろ話題ないし筋の方こそそこに登場する人物にふさわしいものとして選択され表現されることの方が多いものと解される。換言すれば、漫画の登場人物自体の役割、容ぼう、姿態など恒久的なものとして与えられた表現は、言葉で表現された話題ないしは筋や、特定の齣における特定の登場人物の表情、頭部の向き、体の動きなどを超えたものであると解される。しかして、キャラクターという言葉は、右に述べたような連載漫画に例をとれば、そこに登場する人物の容ぼう、姿態、性格等を表現するものとしてとらえることができるものであるといえる。

この判決では、「漫画の登場人物自体の役割、容ぼう、姿態など恒久的なものとして与えられた表現は、言葉で表現された話題ないしは筋や、特定の齣における特定の登場人物の表情、頭部の向き、体の動きなどを超えたもの」が著作権法によって保護されると判示されたのです。

東京地裁が判示するようなキャラクターが著作権法によって保護されるのであれば、著名なキャラクターであれば、個々のキャラクターの絵とりあげることなく、著作権侵害であるという主張ができることになるのです。

東京地方裁判所昭和51年5月26日判決以降、明確には判示しないものの、抽象的な存在としてのキャラクターが著作権法によって保護されることを前提に、著作権侵害を認めたと思われる判決が続きました。

具体的には、東京地裁昭和52年11月14日「ライダーマンお面事件」判決、大阪地裁昭和54年8月14日「キャンディ・キャンディ刑事事件」判決は、いずれも抽象的な存在としてのキャラクターが著作権法によって保護されるかのようなところが見受けられます。

しかし、大阪高裁昭和60年9月26日「ポパイ商標権侵害事件」判決は、次のとおり詳細な検討を加えた上でキャラクターの著作物性を否定しました。

「被告は、キャラクターの複製物も原著作物の複製物として著作権により保護されると主張するところ、右で認定のとおり、キャラクターとは、原著作物中の人物などの名称、姿態、役割を総合した人格とでもいうべきものであって、原著作物を通じ又は原著作物から流出して形成され、原著作物そのものからは独立して歩き出した抽象的概念であって、それ自体は思想、感情を創作的に表現したものとしての著作物性を持ち得ないものといわざるを得ない。被告の主張は前認定のようにいわゆるキャラクター商品化権許諾契約が世上広く行なわれつつある実体に鑑み、キャラクターの商品化利用についての原著作権者(及びライセンサー)側からの防護とライセンサー側からの利用権の実質的確保に資するためには、キャラクターの複製利用をも原著作物の複製にあたるものとして、著作権法上の保護を及ぼすべしとするもののようであるけれども、前示のとおり『キャラクター』は原著作物そのものではなく、むしろこれから離れて独り立ちをしている抽象概念であって(従ってキャラクターの内包する愛玩的イメージと、これが登場する原著作物に表現される思想、感情とは常に直ちに一致するものではない)、その商品的利用を原著作権者の支配下に置こうとするキャラクター商品化権なる発想及びその運用それ自体はこれを否定し得べくもないとしても、そのことから直ちに、裁判所が現行著作権法の解釈上その立法的解決に先んじて、著作物概念を原著作物そのものの有形的表現枠を超えた領域にまで及ぼすことはたやすくなし得ないところである。」

その後、東京地裁昭和61年9月19日「キン肉マン事件」判決において、再び抽象的な存在としてのキャラクターが保護されることを前提にした判決がでましたが、この判決以降、抽象的な存在としてのキャラクターが著作物として著作権により保護することについては一貫して否定されています。

抽象的な存在としてのキャラクターの著作物性を否定する判決としては、東京地裁平成2年2月19日「ポパイネクタイ事件」判決、東京高裁平成4年5月14日「ポパイネクタイ事件」判決、最高裁平成9年7月17日「ポパイネクタイ事件」判決、東京地裁平成11年6月14日「イラスト画画風事件」判決、東京高裁平成12年2月23日「イラスト画画風事件」判決があります。

以上の判例、裁判例を見る限り、現時点において裁判所では、抽象的な存在としてのキャラクターが著作物として著作権により保護されないと考えておくべきです。

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