知的財産
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試験・研究などの実施

一定の政策的理由により特許発明を実施する権利が認められている

試験・研究などのための実施

試験・研究

試験・研究のための特許発明の実施には特許権の効力が及びません(69条1項)。

試験・研究のために行われる特許発明の実施は市場の外で行われるため、特許権者の市場における独占が侵害されるということはありません。
また、特許法の目的が産業の発展にある(1条)ところ、試験・研究が自由に行うことができなければ、技術の進歩が妨げられることで産業の発展が阻害され、却って特許法の目的に反することになります。

そこで、特許法は、試験・研究のための特許発明の実施には特許権の効力が及ばないこととしたのです。

後発医薬品の製造承認

後発医薬品の製造承認申請のための各種試験とそれに供する製剤の製造が「試験又は研究」に該当するかにつき、製薬業界を2分した争いがありました。

薬事法上、医薬品メーカーが医薬品の製造販売を行うためには、厚生労働大臣に対して承認申請を行い、その許可を受けなければなりません。

このとき、医薬品メーカーは、当該医薬品の安全性、有効性に関する様々な試験結果を提出しなければなりません。

そして、後発医薬品メーカーは、医薬品の特許権存続期間満了に合わせて市場において販売すべく、特許権存続期間中から医薬品の製造や試験を行っています。

そこで、このような特許権存続期間中の医薬品の製造や試験が特許権を侵害することになるのか否かがが争われたのです。

名古屋地裁平成8年3月6日判決(判工[2期]2229の59頁)、大阪地裁平成9年2月2日決定(判時1614号124頁)では「試験又は研究」に該当しないと判断されました。
なお、大阪地裁平成9年2月2日におては、実質的違法性がないとして特許権侵害を否定しています。

ところが、東京地裁平成9年7月18日判決(判時1616号34頁)、東京高裁平成10年3月31日判決(判時1631号3頁)、大阪地裁平成10年4月16日(判タ998号232頁)、大阪高判平成10年5月13日判決(民集53巻4号670頁)東京高裁平成10年9月24日判決(判時1668号126頁)はいずれも「試験又は研究」にあたると判断されました。

そして、最高裁平成11年4月16日判決では、「薬事法は、医薬品の製造について、その安全性等を確保するため、あらかじめ厚生大臣の承認を得るべきものとしているが、その承認を申請するには、各種の試験を行った上、試験成績に関する資料等を申請書に添付しなければならないとされている。後発医薬品についても、その製造の承認を申請するためには、あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要する点では同様であって、その試験のためには、特許権者の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し、使用する必要がある。もし特許法上、右試験が特許法69条1項にいう『試験』に当たらないと解し、特許権存続期間中は右生産等を行えないものとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる。」と判示し、「一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに、第三者に対しても、この公開された発明を利用する機会を与え、もって産業の発達に寄与しようとする」という特許法の目的に反するとして、「試験又は研究」にあたると判断されました。

上記最高裁判決により、製薬業界を2分した論争に決着がつきました。

調剤行為

複数の医薬を混合することにより製造されるべき医薬の発明、複数の医薬を混合して製造する方法の発明にかかる特許権の効力は、医師または歯科医師の処方箋により調剤する医薬には及びません(69条3項)。

これらの行為は、国民の健康を保持する上で必要不可欠な行為であり、これらの行為を特許権の存在により自由に行うことができなければ、医療の円滑な遂行が阻害されることになります。

そこで、特許法は、これらの行為については特許権の効力が及ばないこととしたのです。

特許出願時から国内にある物に関する実施

特許出願時から国内にある物には、特許権の効力は及びません(69条2項2号)。

国民経済上の不経済であるとの理由によるものです。他方、この種の規定により特許権の保護が図られないという事態に至れば特許法の目的を図ることができなくなるため、特許権の効力が及ばない物は、出願時点において既に存在するものに限定されているのです。

国際交通機関の運行上必要な物に関する実施

単に日本国内を通過するに過ぎない船舶、航空機またはこれらに使用する機械、器具、装置その他の物には特許権の効力は及びません(69条2項1号)。

船舶や航空機には、最先端の技術が用いられていることもあり、多くの特許実施品が装備されており、これらに対して特許権の効力を認めると、航行に重大な支障を生じさせることがあります。
他方、特許権者としても、航空機や船舶が国内を通過するだけであれば、権利侵害の程度も低く甘受できなくもありません。

そこで、上記のとおり特許権の効力が及ばないとされました。

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